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GAFAも進出する「ドックランド」で進むダブリンのスマートシティ計画、ソフトバンクも参加

アイルランド政府産業開発庁 ICT部門代表 レオ・クランシー氏

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2018年10月10日

――各地でスマートシティ関連プロジェクトが活発になっている。ダブリンの優位点は。

 説明してきたように、アイルランド政府とダブリン市は、産業トレンドを理解し、それに沿った政策を展開することで、スマートシティ関連プロジェクトを全面的に支援している。これが第一だ。加えて、いくつかの優位点がある、

 1つは、実証場所としての適度な規模感であることだ。アイルランドの人口は450万人、ダブリン市のそれは100万人である。大きすぎず、小さすぎもしない。テクノロジーとアプリケーションのそれぞれの検証に有効だと言える。

 オープンデータの活用にも積極的に取り組んできたことで、国民のデジタルテクノロジーやデータ活用に対する理解も進んでいる。最近はEU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規則)が話題だが、アイルランドは世界で初めてデータ保護に特化した大臣を任命したり、取締官を増やしたりすることで、データ活用に向けた市民の安心感を高めることにも注力している。

米国流とEU流を取り持つ“通訳者”とし市場アクセスを可能に

 アイルランドの地理的な位置も、スマートシティにとっては有利に働く。英語圏であるため米国企業の進出が容易で、先端テクノロジーが利用できる。その一方でEU圏でもあるため、先のGDPRに代表されるように、欧州流の考え方も知っている。つまり、米国発の最新技術をヨーロッパ流の文化に合わせて通訳ができるのがアイルランドだと言える。

 この“通訳者”としての役割は、アイルランドが最近になって目指している姿ではない。古くは1950年代からアイルランドは、米IT企業がヨーロッパへ市場への進出拠点として選ばれてきた。

 50〜80年代は、IBMやアナログ・デバイセズが、90年代にはAppleやマイクロソフト、Intelなどが進出している。99年以降はGoogleやFacebook、Amazonもダブリンに拠点を置いている。今ではさまざまな国から400社以上が進出し、9万人超の雇用を生み出しているが、上位14社はすべて米国のIT企業である。

 もちろん年代によって求められる機能も、当初の製造拠点から営業/サポート拠点や研究開発拠点へと変わってきている。たとえばGoogleはセールスエンジニアやカスタマーサポートのために7000人が働いている。最近は、アクセンチュアやインテルなどAI(人工知能)関連のラボを開設するケースも増えている。

――IT企業のニーズに応えられる人材が必要だ。

 ソフトウェア分野の人材育成には国家レベルで取り組んでいる。特に、新しい役割が求める知識やスキルを身に付けるためのリトレーニングは重視している。最新の施策でいえば、国が持つディープラーニングの研究開発センターにおいて、企業の従業員を対象にしたマスターコースを開設した。2018年9月からの第1期生として103人が学び始めている。

 ほかにもEU圏からはビザなしで就労が可能だし、EU圏外からのソフトウェアエンジニアも少なくない。電子工学やコンピューターを学べる機会も多く、アイルランドの労働人口のうち10%がソフトウェア開発者として働いている。

――それだけの先進企業が集まる中、日本企業の進出に何を期待するのか。

 スマートシティで重要なのは、プラットフォームの確立と、そこでのアプリケーションだ。特にアプリケーション領域には、さまざまな企業に参加してもらい、より社会ニーズにあった仕組みを検証し、それを世界に発信していきたい。

 日本の製品/サービスについては、高品質であり、そのために研究開発にも深く取り組んでいることは世界が認めるところだ。そうした国が考えるスマートシティのあり方を取り込むことも必要だと考えている。

 アプリケーション分野は特に絞り込んでいるわけではないが、たとえば高齢化に向けた取り組みや、農業のための仕組みには関心を持っている。アイルランド自体は若い国だが、高齢化は大きなテーマだし、農業への依存度も高いからだ。

 日本企業にしても、欧州や、そこを経由した世界の市場へ進出するための足場になるはずだ。日本の製品/サービスは卓越したものではあるが、米国企業などと比べると営業スキームを確立するための取り組みは残念ながら長けていないのではないだろうか。そこに、アイルランドの“翻訳家”の機能を活用できるはずだ。