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デジタル変革は「Design Thinking」よりも「Design Doing」で

デザイン思考型開発手がけるStarのマイケル・シュレイブマンCEO

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年5月15日

デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みにおいて注目される開発手法の1つにDesign Thinking(デザインシンキング)がある。同手法を使って各社の新規事業や新規商品/サービスの開発を支援するのがウクライナ発のデザイン思考型開発会社のStar。同社は2019年3月から日本法人を置き、日本での本格的なサービス展開を開始した。同社CEOのマイケル・シュレイブマン氏にデザイン思考型開発の価値やStarの強みなどを聞いた。(聞き手は志度 昌宏 = DIGITAL X 編集長)

――Starが手がける「デザイン思考型開発」とは、どのようなものか。

 Design Thinking(デザインシンキング)の考え方に沿って、アイデア出しからプロトタイプの作成、そのプロトタイプをユーザーが実際にどう使用するかのテスト、テスト結果に基づいて洗練させるというプロセスを素早く繰り返し、真に市場が求める製品/サービスを開発することだ。

写真:Star CEOのマイケル・シュレイブマン氏

 当社は2008年にCognianceとして米シリコンバレーで創業し、多くの企業に対しデザイン思考型開発に取り組むためのパートナーとして活動してきた。現在は米サニーベールを拠点にウクライナのキエフなど欧州を含め12都市にオフィスを置いてサービスを提供している。デザイナーやエンジニアなど750人以上が在席している。2019年2月に社名を「Star」に変更したところだ。

 日本市場に向けては2019年3月から本格的なサービスを開始した。ただ、それ以前も、自動車や家電といった業界の大手企業12社に対し、デザイン思考型開発のプロジェクトを支援している。

スタートアップには拡張性を、大手には新たな収益源を提供

 顧客層は大きくスタートアップ企業と大企業とに分かれる。スタートアップ企業に対しては、アイデアをいかに実際の製品/サービスにするかを支援する。彼らにすれば、自らチームを作り上げるために人材採用などに時間を費やすことなく、アイデア出しに集中して事業の拡大を図れる。

 大企業の場合は、中国とのコスト競争の激化や製品/サービスのコモディティ(日用品)化に対抗するための新たな収益源の開発を支援する。デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたビジネスモデルやサプライチェーンの見直しといった領域もカバーする。

――日本でもDXへの取り組みが重要視されDesign Thinkingへの期待も高まっている。だが、付せん紙を使ったワークショップなどのイメージが強く、なかなか企業に定着していかない。

 「Design Thinking」という名称がミスリードしている面がある。「デザイン」と聞けば、「美しく」とか「エルゴノミクス(人間工学)」といったイメージが強いからだ。

 だが、Design Thinkingの本来の意味は「正しいユーザーを見つけ、正しい課題を解くこと」にある。問題を見つけ解決策を導くために、異なる専門性を持つ人材が学際的に活動することが大切になってくる。

 正しい課題を見つけることの大切さを示す例を挙げよう。欧州発で世界的にヒットしたスマートフォンのデザイナーから25年も前に聞いた話だ。

 その欧州の企業は、インドにデータセンターを持っていた。同センターでは、サーバーやストレージの稼働において問題がありシステム停止が頻発していた。エンジニアが機器類を調べた結果、電源周りに問題があると判断。彼らは本国からインドにサーバーを送るなどして問題解決を図った。

 ところが10カ月後に同様の課題が再発する。改めて調べてみるとデータセンターにはネズミが住んでいてケーブルをかじっていたことが分かった。結局、サーバー類を金網で囲うことで問題はすべて解決した。

 これは問題をサーバーやストレージの機器側にあると仮定してしまったことが大きく回り道をしてしまった原因だ。誰もが、これと同様の体験を持っているのではないだろうか。正しい課題をとらえるためには、コンテクスト(文脈)や文化までを踏まえて考える必要があることが良く分かる逸話だ。