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ロボティクスは自己拡張のための技術、パナソニック「Aug Lab」がプロトタイプで可視化する“ウェルビーイング”

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年5月8日

ヒトの感性を解析し理解できる技術を開発中

 これらプロトタイプの背景にあるAug Labが目指すウェルビーイングへのアプローチについて安藤氏は、「WHOの定義をベースに『身体的』『精神的』『社会的』の3要素がある。このうちメカトロ技術をベースに労働作業を支援する身体的要素はすでにできている。精神的、社会的な要素を充実すべき時代に近付いている」と説明する。安藤氏自身、パナソニック入社前は大学の理工学部と医学部で教員としてロボティクスを研究していた。

 そのうえでAug Labが掲げる自己拡張については「自分がしたいことをするために自分を拡張するという意味だ。コロナ禍により自動化で生産性を効率化するニーズが高まっている今こそ、ロボティクス技術は人々の幸福度の向上や社会のクオリティを支えるウェルビーイングを目指すべきではないか」(安藤氏)と語る。

 中でも「ヒトの感性の解析と理解が必要」(安藤氏)との考えから、感性価値の分類と構造化を未来社会をデザインするNPO法人ミラツクと、ウェルビーイング度を推定する技術の開発を予防医学博士の石川 善樹 氏と、それぞれ取り組んでいる(写真5)。

写真5:ヒト感性の解析と理解へのアプローチ手法

 感性価値の分類と構造化では、五感より広義にある感性とは何かを理解するために30冊の文献を元に、さまざまな分野の有識者にヒアリングするなどし、GTA(Grounded Theory Approach:グラウンデッド・セオリー・アプローチ)という手法で構造分析している。これらのデータはオープンデータとして公開するという。

 ウェルビーイングの推定技術としては、自律神経の状態との相関を計測する実験を元に独自評価を作り、心の状態をアンケートで調べることで、主観と客観の両方から推定する仕組みを開発中だ。

 安藤氏は「すでにいくつかあるウェルビーイングの評価も使いながら、時代に合わせた手法を開拓していく。そこではプロトタイプを元に、それぞれを評価する新しい基準などを加えていくことも検討している」と説明する。

2020年度の共同開発パートナーを募集

 プロトタイプについてAug Labでは今後、ユーザー候補に使用してもらい価格設定したり、場合によってはクラウドファンディングを利用したりしながら事業化を進めることも検討する。だが、「事業化は目的ではなく、あくまでも人と機械のインタラクションを研究することがAug Labの目標」だと安藤氏は強調する。

 2020年度もAug Labの活動を継続し、共同研究パートナーを募集している。対象としては、国内の大学や研究機関、企業などに所属し、人の能力・感性を拡張させることに関連した研究開発やプロトタイピングの実施が可能な団体などを挙げる。

 対象課題は、人の能力や感性を拡張し、感性価値を高めるプロダクトやサービスをプロトタイピングする取り組みだ。キーワードは、人の生活全般に関わる活動における達成感やポジティブ感情、没入感などである。「公募件数は2019年度と同じく2〜3件程度になる」(安藤氏)としている(写真6)。

写真6:今回のセミナーはAug Lab リーダーの安藤健氏が発表を行った。

 Aug Labの成果発表で興味深かったのは、プロジェクトのスタートが2019年であったにも関わらず、3つのプロトタイプのいずれもが「ポストコロナ(アフターコロナ/ウィズコロナ)」時代に受け入れられそうなプロダクトであったことだ。

 現在のロボティクス技術は安藤氏が指摘するように、ロボットによる配達や窓口業務の代替、自動運転車といった安全性や効率が求められがちだ。だが、移動や接触が制限される時代では、移動能力やコミュニケーション、人の内面を拡張する技術が求められるようになるだろう。

 今後、ウェルビーイングの定義も大きく変わるかもしれない。Aug Labが2020年度の研究開発成果として、どのような発表をしてくれるのか、今から楽しみにしたいところである。