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生成AI時代の設計はタスクが自動化されアイデア創出に集中できる【前編】
「Autodesk University 2024」より
制約条件によって3Dモデルを生成する機能は既に、3D CADソフトウェア「Fusion 360」に搭載されている。主に機械設計を対象にしたもので、荷重条件や材料特性といった制約条件を入力すれば、3Dモデルのパターンを大量に生成する。設計者が最適形状を探るための機能であり、設計プロセスの効率を高められる。
一般に「アセンブリの寸法決定は手順化できることが大半」(アナグノスト氏)なことから、スケッチから形状や寸法を認識し3Dモデルを作成する機能も搭載する。同機能の活用例にヤマハ発動機の農地向けEV(電気自動車)がある。プロダクトデザインを支援するスタートアップの米Final Aimの支援の下、2000以上のアイデアやイメージを2〜3カ月で生成し、10台のコンセプトモデルを2024年の東京オートサロンで発表した。
これと同様に、Berniniで作成した3Dモデルも「重複部品の製造の自動化や、性能評価、製造方法の検討などにつなげていく」(アナグノスト氏)計画だ。「CO2排出量など持続可能性につながる意思決定場面において、概念設計の段階から環境への影響を解析し、排出量の低減につながる材料を検討する機能を組み込む」(同)とする。
Berniniをベースに業種展開を図る
AutodeskにとってProject Berniniは製造業だけを対象にしたプロジェクトではない。同社エクゼクティブバイスプレジデント CTO(最高技術責任者)のラジ・アラス(Raji Arasu)氏は、「Berniniの技術は建設業向けにも展開する計画だ」と話す。例えば、点群データから、法規制や周辺環境といった制約条件を考慮した構造物のモデルを多段階で生成するなどを想定する。「建築基準法違反や建物の損傷箇所の特定などのレビュー作業が自動化できる」(同)という。
そのためのAIモデルの学習には、「誰もが自由にアクセスできる公開されたデータを利用している」(アラス氏)。学習データに起因する著作権問題などを回避するためだ。開発したモデルも、「AIコミュニティに公開し、そこからもフィードバックを得ながら精度を高めていく」(同)とする。
生成AIの業務利用では一般に、Autodeskも対象にする業種の1つであるメディア・エンターテインメント(M&E)分野が先行する。Autodesk自身、アニメーションを自動合成する「ニューラルモーションコントロール」を3Dアニメの制作ソフトウェア「Maya」(Autodesk製)に搭載している。2024年5月に買収した米Wonder DynamicsのCG(コンピューターグラフィクス)ソフトウェア「Wonder Studio」のエンジンを取り込んだものだ。
ニューラルモーションコントロールでは、人間の動きをキャプチャしたデータで学習したAIモデルを使ってアニメーターは、3Dキャラクターの動きを数個のキーフレーム(開始点)を設定するだけで指示できる。3Dアニメの生成や実写映像に合成するアニメなどに利用されている。
M&E分野のAIモデルは、キャラクターを製作者のイメージに沿って“いかに人らしく動かせるか”が問われるもの。だが、こうした技術も「他業界におけるシミュレーションに応用できる」とアナグノスト氏は指摘する。例えば、都市の設計案に対し臨場感のある群衆をキャラクターとして盛り込んだり、工場の設計時に現場作業員の動きをシミュレーションしたりだ。そうした用途にも生成AIを利用する考えである。
AIアシスタントで設計者のタスクを自動化
AutodeskはAutodesk AIの中で、設計者の作業を支援するAIアシスタント「Autodesk Assistant」の開発も進めている。基本的な機能では、「自然言語ベースで質問を受け付け、Autodeskのソフトウェアなどの利用状況や環境に合わせて別の適切な製品を見つけ出したり、使い方のヒントやテクニックを提案したりする」(アラス氏)
今後は、標準的な手順を持つタスクの実行を自動化し、分析処理まで実行できる機能などを構想しており、ソフトウェアに組み込んで利用できるようにする。例えば、建物の概念設計の段階で「エネルギー排出量を解析して」と質問すれば、完成時のエネルギー排出量をシミュレーションし算出する。あるいは、ドアの材質を鉄製から木製に交換した場合の排出量の再計算や、工場において製造する部品のデータに基づき理想的なフロアレイアウトの作成なども可能になるという。
こうした機能は現在、建設業向けクラウド「Forma」で試験段階にある。アナグノスト氏は「この種の分析時間をできるだけ早めて、簡単に実行できるようにする」と意気込む。
これらのAI機能を最大限引き出すには、それに応えられるだけのデータが必要になる。Autodesk AIを業界横断で展開したいAutodeskは、データ環境をどのように整えようとしているのか。後編ではAutodeskが考えるデータ環境について紹介する。