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【VivaTech 2026】欧州は“産業データ”を武器にデジタルソブリンの確立へ

規制偏重から自前技術の構築へ戦略をシフト

宇江山 貴紀(ジャーナリスト)
2026年8月19日

AI(人工知能)技術をはじめ、重要インフラを特定の海外企業に依存するリスクが顕在化する中、欧州が「デジタルソブリン(主権)」の確立に向けた戦略を大きく転換させている。仏パリで開催された欧州最大級のテクノロジーイベント「VivaTech 2026」では特設ステージ「ソブリンアリーナ」が新設され、最大の焦点になった。欧州は、法規制による“守りの姿勢から、巨大な経済圏ビジネスの創出という“攻め”の姿勢に戦略をシフトする。

 「ソブリン(主権)とは孤立することではない。選択し、競争し、成長する能力だ。これは、防衛プロジェクトではなく、構築プロジェクトである」--。ドイツのカルステン・ヴィルトベルガー連邦デジタル化担当大臣は、仏パリで開催された欧州最大級のテクノロジーイベント「VivaTech2026」のステージで、こう訴えた(写真1)。これは、欧州が、米国や中国から技術を買うだけの「利用者(テイカー)」ではなく、自ら技術を生み出す「作り手(メーカー)」になることの宣言だ。

写真1:ドイツのカルステン・ヴィルトベルガー連邦デジタル化担当大臣(写真提供:VivaTech 2026)

 欧州はこれまで、巨大テック企業への対抗策として法規制といった“守り”の姿勢をとってきた。デジタル主権の確立に向けた“攻め”の姿勢への大転換の背景には「デジタルインフラを非欧州企業に独占されている」という強烈な危機感がある。

 「欧州の上場企業の74%が米国のメールサービスに依存し、クラウド市場の圧倒的シェアを米国のハイパースケーラー(巨大IT企業)が握っている。これはパートナーシップではなく完全な依存であり、欧州は実質的に“デジタルの植民地”になっている」と、プライバシー保護に特化した通信サービスを提供するスイスProtonのラファエル・オファンCOO(最高執行責任者)は強い言葉で警告する。

 この状態から脱却するため欧州は、最大の武器である“調達力”を行使し始めている。公共調達や民間企業の購買力を意図的に欧州域内の企業に振り向けることで、欧州発の技術エコシステムを育成し、巨大な国内市場を創出する。

 実際、クラウド大手の仏Scalewayのダミアン・ルーカスCEO(最高経営責任者)は「AI処理に不可欠なGPU(画像処理装置)を米国企業に依存する状況を打破するため、開発途上にある欧州の半導体スタートアップVisoraに、あえて大規模な発注をかけた」と明かす。

米国の巨大テック企業や政府による「キルスイッチ」を懸念

 欧州企業がソブリンを求める最大の理由は極めて現実的な「地政学的リスクの管理」だ。フランスのAI・テック大使であるクララ・シャパズ氏は「主権が議論されているのは国家が求めたからではなく、それが企業の最善の利益だからだ」と断言する(写真2)。

写真2:ソブリンについて議論するセッションの様子。右端がフランスのAI・テック大使のクララ・シャパズ氏。左端は仏Scalewayのダミアン・ルーカスCEO、その隣がスイスProtonのラファエル・オファンCOO(写真提供:VivaTech 2026)

 地政学的リスクとしては、米国の巨大テック企業の方針転換や米国政府の輸出規制によって、ある日突然、最先端のAIモデルやクラウドインフラへのアクセスが遮断されることが考えられる。これを欧州では「キルスイッチ」と呼び、最大の経営リスクとして恐れている。

 キルスイッチは一般企業にとっても対岸の火事ではない。エネルギー大手の仏ENGIEのキャサリン・マクレガーCEOは「グローバル企業にとって主権とはリスク管理である。特定の一社に過度に依存せず、多様な選択肢を持つことが重要だ」と強調する。同社は重要インフラの運用にはオンプレミス環境でソブリンなサービスを使い分ける戦略を採っている。

 金融分野でも、米国系ステーブルコインの普及による「マネーの民営化」や「デジタルドル化」を警戒し、フランス銀行のエマニュエル・ムラン総裁は「欧州独自のデジタルユーロ導入が急務だ」と訴えた(写真3)。「自社のデータとインフラを防衛することは経営戦略の最優先課題になっている」(同)

写真3:フランス銀行のエマニュエル・ムラン総裁