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ワコール、3DボディスキャナーとAI接客で顧客に“深く、広く、長く寄り添う”オムニチャネル戦略を推進

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年1月30日

 リアル店舗改革のベースになる取り組みが、オムニチャネル基盤の構築だ(写真2)。「事業部ごとに異なるシステムで分断されていた情報を1つの基盤に統合した。顧客や在庫、商品といったデータを一元化し、顧客1人ひとりの行動を把握できるようにした」(下山氏)

写真2:顧客の購買行動をシームレスに把握するためにオムニチャネル基盤を構築した(下山氏の講演資料より)

 最大の改革ポイントは、リアル店舗のデジタル化である。パーソナライズアプリを開発・提供し、購入履歴や自身の下着のサイズなどが記録できるほか、ライフステージに沿った商品情報などの取得を可能にした。実はワコールの売上高の約70%は間接販売によるもの。アプリの提供でワコールは、顧客1人ひとりと直接に、つながれる手段を実現できたことになる。

3Dボディースキャナーが若い世代との接点に

 次に3Dボディスキャナーを開発した。顧客自身が操作でき、5秒間で身体表面の約150万の点群を計測する。「顧客自らが身体のサイズを簡単に計測できるため、販売員の採寸に対する心理的圧迫が解消できる」(下山氏)と期待する。

 計測した群点から最適なブラジャーを導き出す。最大の特長は精度の高さ、言い換えれば測定値に対する顧客の納得度の高さである。「日本女性が、どこからどこの点を結べばウエストだと納得するのか。そうした点の特定とアルゴリズムについて、当社の人間科学研究所が積み重ねてきたノウハウを生かしている」(下山氏)。

 スキャナー開発では2つの特許も出願中だ。1つは、体積によってサイズを判定する技術。「ブラジャーでは“包み込む”という概念が重要だ。5秒間の測定中に胸の体積を測る」(下山氏)という。

 もう1つは、判定した体型特徴を基に、ブラジャーを提案するシステムである。「5秒の間に6つの軸で体型を分析。販売実績や人間科学研究所のノウハウから約150のルールを導き出し『こういう体型の人には、こういう機能を持ったブラジャーが合う』と算出する」(下山氏)。画像分析とAI(人工知能)を掛け合わせてリコメンドする流れが特許の対象である。

 しかし、いくら「データではぴったり」と言われても柄などの好みの問題もある。顧客の好みを反映した提案ができるよう、販売員に代わるAIタブレットも開発した。下着の製品知識や販売員の応対などを学習しており、顧客はタブレットを介してAIと会話することで商品を特定できる。

 3Dボディスキャナーと接客AIを組み合わせた新しいサービスをワコールは「3D smart & try(スマート・アンド・トライ)」と呼ぶ(写真3)。現在、東京に2店舗、大阪と京都にそれぞれ1店舗の計4店舗に導入している。

写真3:3DボディスキャナーとAIタブレットによる新しい接客を導入した店舗「3D smart & try(スマート・アンド・トライ)」の外観(下山氏の講演資料より)

 最初に開設したのは東京の東急プラザ表参道原宿。同店舗では、「3Dボディスキャナーを利用して購買した顧客の20%が、その場での持ち帰りではなく、同店舗外で商品を購入している」(下山氏)という。計測データはプリントアウトして持ち帰れるため、帰宅後などにゆっくりと選定し自宅に近い他店舗やネットで購入しているわけだ。

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