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ワコール、3DボディスキャナーとAI接客で顧客に“深く、広く、長く寄り添う”オムニチャネル戦略を推進
「客を“放置”してくれる店」として評判に
3D smart & tryに下山氏らは「手応えを感じている」という。「これまでキャッチアップできていなかった若い世代が足を運んでくれ、毎日のように誰かがSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で店舗の情報など発信してくれる」(同)からだ(写真4)。
デジタル化したリアル店舗が受け入れられているのは、接客のストレスがないことと、3DボディスキャナーやAIの精度が優れているからだけではない。SNSでの口コミが増えているのには別の理由がある。
3Dボディスキャナーを開発する際、実は下山氏は「女性の体型をありのままに提示するのは良くない。美しく見えるようモディファイしなければだめだ」と指摘されたという。しかし現在の3Dボディスキャナーでは、測定結果をありのままに提示している。
そのため「お客様の多くは、ありのままの自身の体型データに少なからずショックを受けるようだ」と下山氏は明かす。書き込みにも「モニターに映し出された私は、小柄なおすもうさんだった。現実を知るのは辛かったけど、ダイエットしようと思った」などといったものが多いという。だが下山氏は「ありのままを知れることが口コミ数につながっている」と分析する。
理想のスタイルや平均値を提示する仕組みも設けていない。「自身の3Dデータを見て『このままでいい』と思えばそれでよいし『こうしたいな』と思えば下着を買ったり運動をしたり、ダイエットをしたりすればよい。“理想のボディー”というメッセージを投げかけていないことも成功要因だろう」(下山氏)とみる。
同店舗は、顧客自身が1人で測定し下着を選べるとはいえ無人というわけではない。販売員が常駐する。ただ販売員からは決して声をかけることはしない。結果、顧客の側から話しかけられるケースが増えている。下山氏は「いい意味で『客を“放置”してくれる店』と評判になっている」と話す。
3Dの身体データに基づく異業種連携も検討
3D smart & tryを開始したことで、3Dの身体データの蓄積も進む。同社の人間科学研究所はこれまで、約4万5000体の女性の身体データを蓄積してきた。「これは世界的にも貴重だと言われている」(下山氏)。3Dボディスキャナーにより、すでに1万体分のデータを取得した。
ワコールは3Dボディスキャナーを2021年までに100台を設置する構想を持っている。これにより、2年後には少なくとも80万〜120万体のデータを取得したい考えだ。下山氏は、「そのデータを活用し、さらに素敵な下着やサービスを提供していきたい」と意気込む。さらに、「医療分野など他社との協業により新たなビジネスモデルの開発を検討中」とも明かす。
ワコールのミッションは「世の女性にきれいに、美しくなっていただくこと」である。下山氏は「デジタル化は、そのための手段でしかない。1人ひとりの顧客と、より深く、広く、長くつながることを実現したい」と改めて目標を強調した。
企業/組織名 | ワコール |
業種 | 製造 |
地域 | 京都市 |
課題 | 下着への支出が減少傾向にある中で、若い世代など販売員による採寸や接客を望まない顧客層や、多様な買い物経験を持つ顧客層を取り込みたい |
解決の仕組み | 3DボディスキャナーやAIで対応するタブレット端末を店頭に配置し、セルフサービスでの採寸を可能にすることで顧客が、より自由に商品を選べるようにする |
推進母体/体制 | ワコール |
活用しているデータ | 3Dスキャナーで計測した顧客の体型データ、ワコール人間科学研究所が1964年から収集してきた延べ4万人超の体型データ、販売員の接客ノウハウなど |
採用している製品/サービス/技術 | 非接触三次元計測装置(ワコールが開発)、AIボットのためのIBM Watson(IBM製)など |
稼働時期 | 2019年5月30日(東京・原宿での3Dボディスキャナー/AIタブレット設置店舗のオープン日) |
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