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損保ジャパン日本興亜、保険金支払いでの顧客応対の品質を高める応対ガイドAIを開発中

石田 仁志(フリーライター)
2020年2月12日

好感度判定を含めた最終目標は“人の強みを強化できるAI”

 現在進行中のステップ2、好感度を判定するAIはNTTと共同で研究している。「好感度の高いオペレーターの通話特徴をAIが学習し、そのAIが別の担当者の通話を聞いて特徴が合致しているかどうかで好感度の高低を判断する」(立元氏)仕組みになる。

 手順としては、まずスーパーバイザー(SV)クラスのスキル保有者が、汎用の通話にフラグを付ける。それを教師データにAIの仮モデルを作り、業務ごとに求められる好感度に応じてカスタマイズしていく。「自動車担当者に求められる好感度」など複数のモデルを作っていく。

 好感度AIは、好感度が低いと判定されたスタッフの教育に使う。そこでは「AIによって客観性が出るため、指導の際のエビデンスとして使える」(立元氏)と期待する。

 さらに「応対好感度が高いのに顧客が不満を感じている場合は、そもそも商品やサービスが悪かったり、もともとクレームを持っていたりという問題が可視化されることになる。会社全体の品質向上につながるはずだ」と立元氏は語る。

 最終段階のステップ3では、次のような電話応対ガイドAIの実現を目指す。(1)通話内容に合わせてリアルタイムに商品内容を紹介する画面や、相手の感情に合わせて「気持ちを和らげるような話し方をしましょう」「早口になっていますよ」という画面を表示する、(2)顧客ごとに異なる契約内容や事故内容を考慮して、提供すべきアドバイスを提示し、過去の通話から説明が不十分な部分を見つけて補足情報などを提供する、である。

 これまでに、業務マニュアルや発話内容のFAQといった形式知と、クレドマイスターの応対などの暗黙知を揃える取り組みを進めてきた。それを元に最適なタイミングで応対指示を画面上に表示できるAIシステムを開発する。立元氏は「我々が目指すAIは、人の強みを強化できるAIだ。応対を支援するガイドAIにより、人に“ネクスト・ベストアクション”を示唆し、高品質の応対を可能にすることで早期戦力化を実現したい」と力を込める。

1歩目を踏み出せば思わぬ道が開ける

 最後に立元氏は、デジタル化を推進していくうえでの成功ポイントを自らの体験から示した。

 「1つは、高い技術を持ち、熱い思いを持つパートナーといかに組めるかである。もう1つは、デジタル化では、いろいろな逆風を受けるが、強い信念をもってやり続けることだ。1歩目は早く踏み出すといい。1歩目を踏み出すことで、声がかかったり化学反応が起きたりと思わぬ道が開けてくる。何を言われても頑張ってやり続けることが大切である」

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名損害保険ジャパン日本興亜
業種金融・保険
地域東京都新宿区
課題優秀な顧客対応対力を持つオペレーターのノウハウである暗黙知を水平展開できず高度人材の育成に時間がかかる
解決の仕組み電話応対AIを段階的に開発し、暗黙知を可視化し、人材を早期に育成する
推進母体/体制損害保険ジャパン日本興亜、NTT、NTTコミュニケーションズ、NTTテクノクロス
活用しているデータ電話での通話データと顧客応対データ(音声・テキスト)など
採用している製品/サービス/技術音声認識ソリューション「Foresight Voice Mining」(NTTテクノクロス製)、感情分析のための「コールドアンガー抽出」技術(NTTの特許)など
稼働時期2018年2月から0〜3の4つのステップを踏んで導入中。2019年末時点はステップ2の感度を判定するAIの開発段階にある

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