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損保ジャパン日本興亜、保険金支払いでの顧客応対の品質を高める応対ガイドAIを開発中

石田 仁志(フリーライター)
2020年2月12日

損害保険ジャパン日本興亜(損保ジャパン日本興亜)が、コールセンターでの電話応対のためのAI(人工知能)の開発に取り組んでいる。部門スタッフ全員が高品質な電話応対ができるようにするのが目的だ。同社 保険金サービス企画部課改革推進グループ グループリーダーの立元 博史 氏が「DIGITAL X DAY 2019」(主催:弊誌)に登壇し、AIを活用した顧客対応のあり方と、その実現に向けたシステム構想について解説した。

 損保ジャパン日本興亜の「電話応対ガイドAI」は、コンタクトセンターにおける電話応対を対象にしたAI(人工知能)である。顧客に保険金を支払う保険金サービス部門で働くオペレーターや担当者が使うシステムに搭載する。

 保険金サービス部門は、保険加入者が被害に遭ったり被災したりした時に、実際に保険金を支払うという重要な顧客接点を担う部門だ。全国275カ所に拠点を置き、約1万人のスタッフが顧客対応に当たっている。

 保険金サービス企画部課改革推進グループでグループリーダーを務める立元博史 氏は「一般的な問い合わせに対応するコールセンターとは異なり、自動車、傷害、火災それぞれの保険の知識が求められる。被害に遭ったお客様に品質と専門性に裏付けられた安心を届けなければならず、会社の評価を左右する部門」だと、同部門の役割を説明する。

写真1:保険金サービス企画部課改革推進グループの立元 博史グループリーダー

コールセンターには「自動知識支援システム」を導入済み

 同部門で、顧客体験の向上に寄与しているのが、社内で「クレドマイスター」に認定した社員だ。電話応対の品質が高い社員だ。ただ、クレドマイスターの数は全体の2割程度。組織全体の電話応対品質を高めるために、クレドマイスターが持つ“暗黙知”をいかに伝えていけるかが課題になっている。この課題を解決するために同社が開発しているのが電話応対ガイドAIである。

 現在、保険金サービス部門は保険請求業務のデジタル化に取り組んでいる。具体的には、(1)テクノロジーの活用によるフロント業務、顧客接点のCX(カスタマーエクスペリエンス)向上、(2)後方業務の自動化、(3)人の高度化・自動化の3領域である。電話応対ガイドAIは、3つめの人の高度化・自動化で活用する。

 すでに一部AIの活用を進めている。まず2018年2月に「自動知識支援システム」をコールセンターに導入した。通話中に相手の発話内容に応じてFAQ(良くある質問)を自動検索し、「アドバイザー」と呼ぶ応対者の画面上に最適な回答方法を表示する。

 同システムでは、音声認識AIやQA検索AIを活用し、「発話内容やアドバイザーの回答の正誤、同義語を学習して精度を高めている」(立元氏)。ただここで使っているAIは、「コグニティブ(認知)検索エンジンを使った、大量のデータの中から必要な情報を素早く提供できるAI」(立元氏)であり、電話応対ガイドAIとは異なっている。

 電話応対ガイドAIでは、応対内容や相手の感情、契約内容、過去の応対の情報から最適な応対方法をリアルタイムにアドバイスするためのAIを目指している。「インサイト(洞察)エンジンを活用し、担当者が実施すべき“ネクスト・ベストアクション”を教えてくれるAI」(立元氏)だ。状況を判断して提示する応対方法が“暗黙知”ということになる。

 電話応対ガイドAIの開発は、ステップ0から3までの4段階に分けて進めている(図1)。ステップ0が音声認識システムの導入、ステップ1はクレドマイスター分析、ステップ2が応対の好感度を判定するAIの開発、そしてステップ3が電話応対ガイドAIの完成である。2019年末時点では「ステップ0と1が完了し、ステップ2に着手している段階」(立元氏)にある。

図1:ステップ0から3までの4段階で進む電話応対ガイドAIの開発プロジェクト

「DIGITAL X Day 2019」の講演概要をダウンロードいただけます