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- 医療・健康
中外製薬のデジタル戦略、AIやリアルワールドデータの活用で創薬事業の改革を目指す
(2)バリューチェーンの効率化:有機的なコミュニケーションを実現
2つ目のバリューチューンの効率化では、データの集約と分析といった未来型工場の実現や、デジタルマーケティングの取り組みを進め、MR(Medical Representative:医薬情報担当者)のためのインサイト情報をデジタルで提供する。営業日報や売り上げなどの分析では、データ基盤の「DOMO」とBIツールの「MOTIONBOARD」とを活用する。
医療関係者向けにはWebサイト「PLUS CHUGAI」を2019年4月23日から公開してきた。デジタルマーケティング戦略を担当する営業本部 カスタマーソリューション部長の嶋内 隆人 氏は、「副作用データベースや製薬に関する様々な情報を、一部オンデマンドのライブ配信を含めて提供している。月間平均14万、多い時は20万のユニークユーザーが訪れている。チーム医療をテーマにしたオンラインワークショップも好評だ」と話す。
新しい営業プロセスに合わせたデジタル活用基盤を構築中だ。オーダーメイド型で顧客ニーズに対応するためのデジタルマーケティング環境に加え、データの可視化や、営業データの質的向上、顧客との有機的なコミュニケーションなどを実現する。そのための全社横断プロジェクト「0C(ゼロ・シー):Organic communication)」も立ち上げた(図7)。
(3)デジタル基盤の強化:全社データ活用のクラウド期間を構築
3つ目のデジタル基盤の強化では、全社でのデータ利用の推進を目的としたクラウド基盤「Chugai Scientific Infrastructure(CSI)」を構築した(図8)。CSIが中外製薬における各種データに基づくDX戦略の実行を支える。CSIはクラウドサービス「AWS(Amazon Web Services)上に構築し、2020年月に稼働させた。
社外への情報発信なども強化
こうしたデジタル環境の整備に加え、情報共有や情報発信にも力を入れる。社員の自由な発想やチャレンジを形にする「デジタルイノベーションラボ(DIL)」を設立したり、社内の取り組みを社外に発信する「CHUGAI DIGITAL」の開設、外部パートナーと連携した積極的な共同プレスリリースの発信などである。
今回のデジタル戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の説明会開催も、その一環だろう。他業界を含めても、デジタル戦略を今回紹介したようなレベルで紹介する企業は珍しい。
そうした成果の1つが、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「DX銘柄2020」に選ばれたこと。グループ親会社のスイスのロシュが持つリソースを最大活用する共同プロジェクトなどが評価対象にもなっている。
社内外やグローバル市場に向けて自社の強みをより強力にしようと全方向でデジタル戦略に取り組む中外製薬。同社の動きが製薬会社のDXのモデルになるのか注目したい。
企業/組織名 | 中外製薬 |
業種 | 医療・健康 |
地域 | 東京都中央区(本社) |
課題 | 2030年までを目標に、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターを目指す |
解決の仕組み | DX戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」に沿い、3つの基本戦略(1)デジタルを活用した革新的な新薬の創出、(2)すべてのバリューチェーンの効率化、(3)デジタル基盤の強化を推進する |
推進母体/体制 | デジタル・IT統轄部門、デジタル戦略委員会、デジタル戦略推進部、デジタルイノベーションラボ(DIL)など |
活用しているデータ | ウェアラブルデバイスなどで取得するデジタルバイオマーカー(生理学的データ)、医療関連のリアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)など |
採用している製品/サービス/技術 | AI、ML、クラウド基盤など |
稼働時期 | 2020年3月(「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の発表およびクラウド基盤「Chugai Scientific Infrastructure(CSI)」の稼働時期 |