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中外製薬のデジタル戦略、AIやリアルワールドデータの活用で創薬事業の改革を目指す
中外製薬は2020年3月、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表した。グローバルでの競争が激化する製薬事業において、AI創薬の取り組みをはじめ、独自の技術力に最先端のデジタル技術を掛け合わせ、事業全体を強化する。「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」に関する説明会から同社のデジタル戦略を紹介する。
中外製薬をはじめ、創薬をコア事業とする製薬会社は大きく3つの課題を抱えている。(1)薬の開発から承認を得るまで約10年の時間がかかること、(2)コストの増大、(3)基礎研究から創薬への成功確率の低さである。
これらの課題解決に向けて、急速に発展するITやデジタル技術を活用し、AI(人工知能)や各種データを活用した新たな科学的手法を導入する動きが、メガファーマと呼ばれる大手はもとより、関連するすべての事業者で始まっている。
そうしたなか中外製薬が2020年3月に発表したのが、同社のデジタル戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」だ(図1)。
デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を担当する執行役員デジタル・IT統轄部門長の志済 聡子 氏は、同ビジョンの下、2030年までを目標に「デジタル技術によってビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターを目指す」と説明する(写真1)。
CHUGAI DIGITAL VISION 2030の基本戦略は3つ(図2)。(1)デジタルを活用した革新的な新薬の創出、(2)すべてのバリューチェーンの効率化、(3)デジタル基盤の強化だ。併せて「社員の意識や組織風土を変えながら、最適な個別化医療の提供と、サスティナブルな社会保証制度の実現に会社全体で取り組む」(志済氏)。
3つの基本戦略のそれぞれに詳細な取り組みテーマがあり、「ヒト・文化を変える、ビジネスを変える、社会を変える」の3フェーズでロードマップを設定している(図3)。デジタル案件のポートフォリオは全社横断で管理し、「変革、成長、運営」のキーワードで分類して投資の可視化と最適化を図る。「デジタル戦略委員会」が毎月1回、DXに関わる投資案件審議などを行う。
2020年10月には「デジタル戦略推進部」を発足させ、社外パートナーとの協力体制を強化した。志済氏は「経営トップのコミットと、多様なトップタレント・プレーヤーの力がDX実現の鍵だ」と力を込める。
基本戦略に掲げる3領域を詳しく見ていこう。