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DXを支えるのはITをバックボーンに持つ人材だ
味の素の白石 卓也CEO補佐
DX推進には「ITをバックボーンとした人材が必要
そんな白石氏は新規事業に必要な要素として、(1)アイデア=事業戦略、(2)資金、(3)事業パートナー、(4)マーケティング、(5)プロセス、(6)テクノロジー、(7)これらのコアとなる人材を挙げる。
これらの要素のうち(1)~(3)は、「大手企業では体制が整いつつある。味の素でもそう感じている」(白石氏)とする。一方で(4)~(6)は「道半ばだ」(同)と話す。
例えば「マーケティングにおいて消費者との距離はまだまだ遠く、D to C戦略は確立されていない。新規事業に向けたプロセスも試行錯誤が続いている。テクノロジーについても『DX』というバズワードのもとに関心は高まっているものの、十分な活用には至っていない」と白石氏は指摘する。
特にDXにあっては、従来の延長線上とは一線を画するビジネスモデルの構築が前提になる。その推進において、事業や時代の変化を俯瞰し、新たな価値を創出する人材像として白石氏が挙げるのが「ITをバックボーンとした人材」である。
その背景には、人材難と人材スキルのアンマッチングがあり、「そこにIT経験者のアドバンテージがある」(白石氏)とする。その理由として白石は、3つの素養に着目する。1つは、ソフトウエア開発に不可欠なグランドデザインの発想を有していること。その俯瞰力が「新規事業の計画立案、また長期スパンでの遂行に活かされる」(白石氏)という。
第2は社外のネットワークが豊富なこと。「IT人材は業界を横断した技術関連のセミナーやベンダーとの会合などに参加する機会に恵まれており社外との接点が多い。それだけに、広い人脈や視野を活かして新規事業に取り組める」(同)
第3はメンタルの強さだ。「ITの世界では、開発側と利用側で亀裂が生じるケースは少なくない。仕様変更や新しい技術の導入などに伴い、納期に対するプレッシャーにも直面する。そのタフさは新規事業においても求められる」(同)と話す。
これらの素養に加えIT経験者は、「データの価値・構造に関する知識、アジャイルの理解、テクノロジーの知見など、新規事業に必要なスキルセットを兼ね備えている」(白石氏)とする。
そして何よりも、「失敗に慣れている。日本企業には、減点主義で失敗を許容できない文化が根付いているが、それでは試行錯誤が不可欠な新規事業の推進はできない。いわゆる“仮説・検証”の術を知っているという点も、新規事業にIT経験者を投入する大きなメリットだと言える」と白石氏は強調する。
当然ながら、新規事業においては、組織を横断したフレームワークが求められる。その際に、「いわゆるハブ機能を果たすという意味でも、部門横断的に要望を聞き取ってきたIT経験者のコミュニケーション力が活かされるはずだ」と白石氏は語る。
CIOはIT部門の外に出よう
そうしたDXの推進者たるCIOに対し白石氏は、「IT部門の外に出よう」「健康で長く働こう」と提言する。前者は「俯瞰」の重要性を、後者はCIOを務められる人材の希少性を物語っているといえる。その際、日本企業において重要な意味を持つのが「テクノロジーリテラシーに対する認識だ」と白石氏は指摘する。
図4は、企業変革を推進するリーダーが持つべきマインドおよびスキルに対する日米比較を示したもの(『DX白書2021』、IPA)。日本企業が、「リーダーシップ」や「実行力」「コミュニケーション能力」など“個”に依存した能力を重視しているのに対し、米国企業は顧客や業績、変化への志向性のほか、成果指標として数値化しやすい項目を重視している。
中でも日米で最も温度差があるのが「テクノロジーリテラシー」である。米国企業が30%を超えているのに対して日本企業は10%以下と、その差は歴然としている。白石氏は、「変革を推進させるためには、テクノロジーは有効な手段になる。それだけに、マネジメント層にテクノロジーに対する理解が深まれば、変革のスピードを加速できるはずだ」と力を込める。
白石氏は講演の最後を「(今回の「CIO Summit」に続く)次回は『ex CIO(元CIO)による(事業会社のための)サミット開催を望む」と結んだ。それほど白石氏は、豊富な知見と経験を持つCIOがDX推進のコア人材たり得ると考えているのである。
【CIO Japan Summit 2022】
主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド
日程:2022年5月10日・11日(火・水)
会場:ホテル椿山荘東京