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戦略的活用が進むSaaS、利用企業が提供者になるチャンスも【第5回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年1月22日

自社のノウハウやアイデアがビジネスになる

 このようにSaaSは進化を続けており、HorizontalとVerticalの双方でサービスの品揃えも増えている。これらのSaaSや課題や顧客の要求を先取りした先進的なSaaSを活用することによって利用企業は、コラボレーション改革や働き方改革のような会社の改革を推進したり、プロセスや仕事のやり方を改革したりが可能になる。

 アプリケーションの自社開発をSaaS活用に切り替えれば、人材をより戦略的なプロジェクトに集中させることも可能になる。自社の戦略実現のためにSaaS/PaaS/IaaSのクラウドサービスをどう活用するかに対し、統合した方針や活用戦略を考えることが重要である。

 一方で単に利用するだけでなく、自社のノウハウやアイデアをSaaSの形でビジネス展開することも可能性として検討すべきだ。SaaSのビジネスモデルはサブスクリプション型である。サービスを提供することによって顧客とつながり、顧客の使用状況を分析したり新たな要望を聞いたりすることで、サービスを改善し続け価値を高めることが可能になる。

 すなわち、自社の強みやアイデアを生かし、特定の分野に特化したVertical SaaSとして展開するというビジネスチャンスがあるわけだ(図1)。

図1:SaaS(Software as a Service)の戦略的活用には、利用者の側面と提供者の側面がある

 たとえば米Forbes誌は、クラウド分野で活躍するベンチャー企業として「Cloud 100」を選んでいるが、そのトップ5には、Stripe、Dropbox、Slack、Docusign、Advenが挙がっている。

 Stripeは、スタートアップ企業をターゲットにした決済システムを提供する。手間をかけずに済システムを導入できるというスピードを強みにしている。ダッシュボード機能を持ち、顧客情報やトランザクションの可視化もできる。

 Dropboxは、クラウドストレージに特化しながら、B2CからB2Bに対象を広げることでビジネスを強化し続けている。Slackは、Business Week誌の選定でも8位に顔を出しているが、同社はクラウドインフラによって急成長したサービスでもある。

 Docusignは、電子署名のアプリケーションで文書に対する署名捺印や承認、合意をデジタルで可能にする。DTM(Digital Transaction Management)と呼ぶクラウドによって、文書ベースのトランザクションを管理・運用する仕組みを提供する。Advenは、ECやモバイル、POSなどをカバーする決済アプリケーションを提供し、クレジットカード、デビットカードなどをサポートしている。

 これらの例のように、特徴が明確で競争力があるアプリケーション/サービスを開発できれば、ソフトウェアベンダー同様に成長できる可能性が広がっているのである。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。