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戦略的活用が進むSaaS、利用企業が提供者になるチャンスも【第5回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年1月22日

クラウドサービスにおいて、各種アプリケーションの機能を提供するのが「SaaS(Software as a Service)である。前回は、『IoTやAIの最新サービスを支えるクラウドの進化と価値』と題して、アプリケーションの実行基盤の「PaaS(Platform as a Service)」が、新規事業や変革に向けたをスピードアップするために活用されていることを紹介した。今回はB2B(Business to Business:企業間)分野におけるSaaSの動向と活用について考えてみたい。必要な機能がSaaSとして提供されているのならば、その活用の検討が経営上必要である。

 SaaS(Software as a Service)は、ソフトウェアベンダーが、自社のソフトウェアやアプリケーションを貸し出すクラウドサービスである。利用期間に応じで料金を課金する支払うサブスクリプション(購読)モデルが採用されており、利用者は、必要なソフトウェアの購入やインストール、バックアップ、アップグレードなどを心配する必要がない。

 利用企業はSaaSを活用することによって、導入・運用の手間とコストの削減、安定性と可用性の向上、セキュリティの確保といった効果が得られる。米調査会社のForester Researchが欧米で実施したSaaSの採用要因に関するアンケートによれば、表1のように、可用性と信頼性が特に高く評価されている。

表1:欧米企業によるSaaS(Software as a Service)の採用要因(米Forester ResearchのSaaSの採用要因に関するアンケート結果を元に作成)
要因効果重要と答えた割合
北米企業欧州企業
可用性と信頼性可用性や信頼性で実績のあるアプリケーションやソフトウェアを使える71%59%
活用の迅速性契約すれば必要な機能がすぐに使える45%37%
社内ITへの依存がなくなる使いたいアプリケーションだけをサービスの形で使うため、アプリケーションを稼働させるハードウェアや基本ソフトウェアの準備や運用がいらない。もちろんITガバナンスの面からは、Shadow IT化することによるコストの無駄や、セキュリティリスクを抑制するための管理は必要である24%29%
柔軟な使用必要な期間、必要な人だけが使える35%27%
シンプルな価格体系明確な価格体系に基づき、使っただけの料金を支払えばよい32%36%

 米調査会社IDCの報告では、パブリッククラウドビジネスにおいて、SaaSセグメントは全体の69%近くを占め、2017上半期は前年同期比で22.9%成長している。活用分野としては、汎用的な業務や新しい業務などSaaSに容易に移行できる分野から、ERP(Enterprise Resource Management)やSCM(Supply Chain Management)といった基幹システムでの活用が進んでいる傾向が示されている。

コラボレーション系、ERP系、HR/HCM系の成長率は30%を越える

 もう少し具体的にSaaSの活用分野を見てみよう。米調査会社のSynergy Research Groupの発表では、2017年第2四半期にSaaS市場は前年同期比で31%伸張した。その中で、コラボレーション系と、ERP系、HR/HCM(Human Resource/Human Capital Management)系のSaaSが同30%を越える成長をみせている。一方でCRM(Customer Relationship Management)系は約20%の成長だった。

 コラボレーション系SaaSには、グループウェアや、チャット、Web会議、ワークフロー管理、ドキュメント管理などが含まれる。ERP系は、販売・生産管理などが、HR/HCM系には、人事・給与、財務・会計などが、それぞれ含まれる。CRM系には、営業/マーケティング、MA(Marketing Automation)、顧客管理などが含まれる。

 コラボレーション系の伸びは、B2C(Business to Consumer:企業対個人)分野で先行したSNS(Social Networking Service)などのテクノロジーをB2B分野にSaaSとして展開する流れと、企業が生産性向上や働き方改革を加速させたいという目的が結びついた結果だと言える。

 一方で、ERPやHR/HCM、CRMの領域では、元々自社で開発していたり、アプリケーションパッケージを自社サーバーで運用したりしてきた仕組みをSaaS活用に切り替える流れが広がっている。基幹系アプリケーションをSaaSとして利用することで、スピードやコストといった価値に加え、プロセスや仕事のやり方そのものを刷新し変革につなげるなど、より大きな価値を生み出すことを狙っている。

 さらに、SaaSに切り替えることで、システムの開発や運用にかけるリソースを、他社との差別化に向けたシステムの実現や、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)などの先端テクノロジーの活用など、より戦略的な「SoE(System of Engagement)」領域に移すことが可能になる。こうした活用方法は今後、より活発になっていくだろう。

 最近はシステム分野のSaaS化も進んでいる。一例がセキュリティ分野である。2016年にセキュリティ市場全体の伸びは4%だったが、その中でSaaS型のセキュリティ製品は20.2%の伸びを示している。