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株価変動や仮想通貨に見るFintechがもたらす経営と社会へのインパクト【第7回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年3月19日

既存システムにない新たな価値を持っている

 ブロックチェーンが提供するのは、分散台帳に基づいたトランザクション処理の仕組みだ。機能的には、既存のデータベースやトランザクション処理システムでも実現は可能である。

 しかし、既存のシステムは集中管理が基本のため、サーバーやソフトウェア、トランザクション処理のネットワークのほかに、バックアップやデータに関するセキュリティ対策が必要になる。構築期間とコスト、運用コスト、スケーラビリティの面ではブロックチェーンの優位性は揺るがない。実績としても、世界中で多くの人が使うビットコインのインフラとして、そのスケーラビリティと信頼性は証明されている。

 別の観点の価値として、特定の会社に依存することなく新しい仕組みを構築できることがある。P2Pネットワークを使った分散処理であるため、クラウドやプラットフォームが必要ないからだ。既存のプラットフォームを使わず、参加者が対等な立場で参加でき、管理と責任を共有できる大規模な仕組みを実現可能なインフラになる。

 さらに、「スマートコントラクト」を実装すれば、さまざま応用が可能になる。スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上に電子的なコントラクト(契約)を安全に保管し、コントラクトに記述された合意内容を自動的に実行する機能を備えた仕組みである。

 これらの価値を持つブロックチェーンは、銀行や金融サービス、保険などの分野に留まることなく、さまざまな分野の基盤への適用が始まっている。P2P型のマーケットプレイスや、各種ストレージ、セキュリティやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)といった分野でベンチャー企業が製品/サービス化にチャレンジしている。

 今後は、既存のデータベースやトランザクション処理システムと比較したメリット/デメリットが考慮されながら、ブロックチェーンの利用が、より有用な分野が明確になり実用化が進むであろう。

 ペイメントや融資、仮想通貨の例に見られるように、Fintechによって破壊的なイノベーションが起こっている。その動きは、Fintechを直接に利用する企業だけでなく、その利用者である我々の仕事や生にも大きな影響を与えている。この変革は、既存の業界以外からの新規参入によって加速されていくだけに、そこへの対応にはスピードが重要になる。Fintechの動向や、それによって起こる変化を正確にとらえていかねばならない。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。