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株価変動や仮想通貨に見るFintechがもたらす経営と社会へのインパクト【第7回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年3月19日

2018年2月5日、NYダウが過去最大の下げ幅を記録し、翌日には日経平均も全面安になるなど金融市場が大きく動いた。仮想通貨に関しても、ビットコイン価格の下落やコインチェックにおける仮想通貨「NEM」の不正流出といったニュースが世間をにぎわせた。いずれにも、金融分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を支える「Fintech(FinanceとTechnologyによる造語)」が影響している。今回はFintechの動向と、その中核技術と言えるブロックチェーンに焦点を当てて、今後の動きを考えてみたい。

 「Fintech」は、さまざまな分野に、その活用が広がり、これまでの仕組みを大きく変えてきている。その例として、株のトレード(取引)、モバイル決済、融資の3分野における動きを見てみよう。

株のトレード

 株式運用におけるコンピューターによる運用は増え続けている。すでに資産運用の60%を占め、10年前の2倍に増えたとされる。これによって仕事や人材にも大きな変化をもたらしている。

 たとえば米Goldman Sachsの米国株式トレーディング部門では、トレーダーの数が2000年の600人から現在は2人になっている。削減分は、200人のエンジニアが開発・運用するコンピューターが代替しているという。トレーディングではAI(人工知能)の活用も積極的で、1秒間に数千回という超高速でトレードを実施し、少額の利益を積み上げていく「高速トレード」の90%を占めている。

 ただAIによって高速な売り買いが可能になったことによって、株価が大きく動くときには、その変化を増幅することになる。

モバイル決済

 日本でも少額の支払には、「Suica」などの電子マネーが普及してきているが、スマートフォンによるモバイル決済の普及率は6%である。これに対し中国では、モバイル決済が爆発的に広がっている。トップシェアを持つアリババの金融部門が独立した「支付金(アリペイ)」の利用者数は4億5000万人を越え、1日の平均取扱件数は1億件を超える。その仕組みは、スマートフォン用のアプリを使って2次元バーコード(QRコード)を読み込みだけである。

 米調査会社のStatistaは、2021年にはモバイル決済の使用率が倍になると予想している。現金を扱う機会が減れば、それに関連する仕事や仕組みは不要になる。

融資

 新しいビジネスモデルによって、借り手の信用に基づき、さまざま貸し手からお金を借りられるようになってきた。米FORTUNEが発表している2016年のUnicornリストにおいて、Fintech分野のトップ5のうち、1位の中国Lufax、4位の米Social Finance(Sofi)、5位の米Credit Karmaが融資に関連するベンチャー企業だ。

 Lufaxは、借り手の要求に対し貸し手をダイナミックに見つけ出し、両者を直接結び付けるインターネット上の融資マーケットプレイスを提供する。すでに20万件以上の融資を扱っているという。

 SoFiは、融資の判断を既存の担保でなく、データを基に広い観点から審査することで新しい融資の仕組みを創り出している。融資だけでなく、家の購入や学生生活、キャリアアップに関するアドバイスやツールも提供している。

 Credit Karmaは、信用基準であるクレジットスコアをオンラインで提供する。クレジットスコアは、ローンやクレジットカードなどの支払い履歴から算出された個人の信用を表す指標だ。信用を数値化したもので、クレジットカードや住宅ローンの審査だけでなく、採用などにも使われている。

 このようにデータやインターネットを活用した仕組みによって、貸し手と借り手を結びつけたり、データに基づいた信用を数値化し提供したりする新しいビジネスモデルが創り出されている。

 こうした株のトレードやペイメント、融資以外にもFintechの適用分野は広がっている(表1)。たとえば11番目にある「Regtech」はコンプライアンスの確認やリスク管理、監査に使われるテクノロジーだ。金融規制の高度化に対応するソリューションとして注目されている。

表1:FinTechの適用分野
順位 分野
1資産運用、トレード
2ペイメント、スマート決済
3融資、クラウドファンディング
4仮想通貨
5クラウド会計
6個人資産・財産管理
7パーソナルファイナンス
8資金移動
9保険関係
10不動産関係
11Regtech