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中国アリババのFintechにみるデータの高度活用法【第8回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年4月16日

利用者が増えればデータが増え新サービスにつながる

 アリペイは、種々のサービスの利用データから、会員の消費情報や位置情報をデータとして収集できる。さらに蓄積されたビッグデータを解析することによって、会員の消費動向や嗜好、行動をとらえられる。それは、マーケティング戦略やO2O(One to One)マーケティング施策などに活用されている。

 たとえば、アリペイが提供するスマホアプリでは、リアルタイムの位置情報に基づき、周辺の加盟店や人気店などのおすすめ情報を表示できる。加盟店も、ローカルプロモーション情報として、クーポンや特売情報をアップできる。この仕掛けにより、利用者の35%が移動のたびにアプリを開くことになり、決済がなくても会員の位置情報を収集可能になっている。

 マーケティング活用だけなら、多くの企業が取り組んでいる。しかしアリペイは、蓄積したデータの解析によって、新たなサービスも生み出している。2015年に開始された「芝麻(ジーマ)信用」と呼ぶ信用度スコアが、その代表例である。

 芝麻(ジーマ)信用は、アリペイでの支払履歴に加え、アリババグループのSNS(ソーシャルメディア)から入手できる交友関係データや、利用者が入力する資産保有状況、学歴や職歴といったデータを基にしたスコアである。スコアは毎月改定され、利用者は自身のスマホアプリを使って確認できる。

 利用者は、そのスコアによりランク付けされる。上から「信用極好(950~700)」「信用良好(649~600)」「信用中等(590~550)」「信用較差(549~350)」と呼ばれる。ランクが高ければ高いほど、様々なメリットが得られる。金利優遇や、一定レベル以上の会員しか使えないサービスの提供、ホテルやレンタカーのデポジット(預かり金)の免除などである。

 芝麻信用の活用はグループ外にも広がっている。民泊サービス「Airbnb」など他社サービスでのアカウント登録に使われたり、結婚や就職などでも芝麻信用を参照したりする動きが出ている。このようにデータを蓄積し、ビッグデータ解析によって新しい価値のサービスを生み出し、そのサービスを使うことによって、さらに次の新サービスを創り出すという“イノベーションの連鎖”が実現されている。

 モバイル決済と信用スコアを組み合わせたイノベーションの例が、アリババが2017年12月に設置を発表した「車の自動販売」だ。この仕組みでは、利用者はまずアプリを使ってほしい車を選んで、最寄りの自動販売店舗に向かう。店舗では顔認証かログインコードを使って本人認証すれば、事前に選んだ車が自動駐車機のような機械から搬出される。顧客はその車を最大3日間試乗したり、その場で購入したりができる。

 購入する場合は、頭金として10%だけをアリペイで支払えばよい。ローンに関しても支払条件がスマホに提案される。このとき、購入可能かどうかの判断に芝麻信用のスコアが使われておりスコアが750点以上の会員だけが、この仕組みを使って自動車を購入できる。

サービスを支えるインフラも重要

 このようなサービスや仕組みを実現し拡大するには、それを支えるインフラの役割が重大である。アリババは、クラウドやテクノロジーを提供するテクニカル事業もグループ企業化し、グループ各社のサービスを支えさえている。

 アリババのクラウドサービスである「AliCloud」は、直近の四半期で前年比104%増と急成長している。米調査会社IDCのデータでは、収入ベースではAWS(Amazon Web Services)、Microsoft、IBMに次ぐ世界市場シェア4位になっている。その能力は1日に最大10億5000件のトランザクションを処理できるだけのスケーラビリティ(拡張性)を持っている。ビッグデータに関しては、収集・蓄積・分析およびアプリケーションを実行するプラットフォームを提供する。

 先端的な分野にも積極的だ。AI(人工知能)分野では、機械学習のような基礎技術と、その応用分野である文章認識や音声認識、イメージやビデオの認識、検索とリコメンデーションなどの強化を続けている。

 その成果として、米スタンフォード大の読解力試験「SQuAD(Stanford Question Answering Dataset)」において、Microsoftと共に、過去に人間が達成した成績を上回った。SQuADは世界で最も権威があるマシンリーディングの基準である。

 2018年3月には、量子コンピューティングサービスの提供も始めている。