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  • 大和敏彦のデジタル未来予測

“ものづくり”の概念を壊す製造業のデジタルトランスフォーメーション【第9回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年5月21日

3Dプリントは今ある部品の置き換えに留まらない

 一方、3Dプリントに対しGEは、2020年に10万点以上の部品を対象に金型から3Dプリントに切り替えることを目標に、投資しテクノロジーの開発を進めている。そこで使われる3Dプリントでは、「Additive Manufacturing(付加製造)」と呼ばれる金属素材を使った積層造形技術によってパーツを製造するテクノロジーを利用する。

 Additive Manufacturingでは、1つまたは複数のレーザー光線を用いて、非常に細かな金属粉を1インチあたり1250もの層に重ねながら結合させることで、必要な形状を造り上げる。レーザーの代わりに電子ビームを用いれば、高強度で扱いが難しいチタン合金のような素材も積層造形に適用できるという。これまでの金属を削って部品を作る製造方法とは対照的だ。

 このテクノロジーをGEは着実に進歩させており、すでに直径1メートルのモノを直接プリントできる装置も発表している。2020年には、10億ドルの収入を3Dプリントの部品から得られるとしている。

 Additive Manufacturingの技術が適切なコストで実用化されれば、部品の在庫や輸送の仕組みは大きく変わる。部品を使用する場所に3Dプリンターがあれば在庫は不要になる。部品を輸送するのではなく、3Dデータを送信すれば、必要な場所でプリントできることになる。

 3Dプリントのメリットは、在庫や輸送に留まらない。2013年から18カ月かけて実施した、機械の50%を3Dプリントによって作成するというプロジェクトでは、機械の構成部品を元々の900から16にまで減らせた。結果、その機械は40%軽くなり、60%安価になったという。

 このように3Dプリントは、製造、部品調達、在庫のプロセスを変革するとともに、性能や品質の向上、組み立て工程の大幅な削減といった部品自身の変革を生み出せる。3Dプリントを前提とした設計方法と設計スキルにも大きな影響を与える。

アプリケーション開発のためのプラットフォームが必要に

 デジタルツインと3Dプリントを例に、デジタルテクノロジーによる設計や開発、製造、運用へのインパクトを考えてきた。これらのデジタルパワーを迅速に実現するためには、開発のためのツールやプラットフォームが必要になる。GEは、インダストリーアプリケーションを開発・実行するためのプラットフォームとして「PREDIX」を開発し、他社にも提供している。

 PREDIXは、クラウドサービスのPaaS(Platform as a Service)に相当する。製品や製造機械をインテリジェント資産とするための接続機能や、アナリティック機械学習、デジタルツイン、セキュリティ機能を提供し、インダストリーアプリケーションの開発や運用を支援する。迅速な応答を実現し大量のデータ転送を防ぐため、機能をエッジや機器上で稼働させるエッジコンピューティングの機能も持つ。

 このように、デジタルツインや3Dプリントの展開と同時にプラットフォーム化を進めることによって、コストやスピードという効果だけでなく、経験によるエラー原因の削減、ベストプラクティスの共有・展開、将来への継続活用といった効果も期待できる。

 製造業では、今回取り上げた内容以外にも、製造機械やロボットのAIによるインテリジェント化や協調・連動、顧客とのデマンドチェーンの構築、製造のサプライチェーンの最適化など、さまざまな試みが世界各地で進んでいる。それらは、GEの例のように、さまざまな部分に変革を起こす。

 冒頭の図1に示したように、デジタルによって自らの製品そのものと、開発・製造をどう変えていくかを検討しなければ、大きなチャンスを逃すだけでなく、競争力を失っていくことになる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。