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AIによって変わる企業競争、先行する米国に中国が肉薄【第11回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年7月16日

中国が世界のAIイノベーションセンターを目指す

 これら米企業とともに注目しなければならないのが中国の動向だ。中国はAI人材数だけでなく、AIに関する特許・論文やスタートアップ企業の数を増やしている。すでに特許数とスタートアップ企業による資金調達額では米国を抜いてトップである。

 さらに中国政府は、強力なAI推進を国家主導で進めている。2017年7月に発表された「次世代AI発展計画」では、2030年までに「理論、技術、応用のすべての分野で世界トップ水準」に引き上げ、中国が世界の「AIイノベーションセンター」になることを目標にする。そこでのビジネス規模は関連企業を含め10兆元(約170兆円)になるとする。

 そこに至るロードマップも、第1段階の2020年までに「世界先端水準」に引き上げ、想定するビジネス規模は1兆元である。第2段階の2025年までには、基礎理論を進展させ、一部技術と応用を「世界トップ水準」に向上させる。具体的には、(1)医療、(2)スマートシティ、(3)自動運転、(4)音声認識の4つを重要分野に挙げ、分野ごとにリード企業を選定し、インフラや法制度を含めた展開を図る(図2)。

図2:中国の「次世代AI発展計画」における4つ重要分野とリード企業

 すでに自動運転では、バイドゥが「Apploプロジェクト」を立ち上げ、半導体やソフトウェアアーキテクチャーの開発、協業モデルの構築など、積極的な動きを見せている。

 大規模な実験や適用も政府主導で進む。2035年には北京市近郊に自動運転都市を作り上げる構想が発表された。個人の乗用車をすべて自動運転にすることを目指し、技術だけでなく、政府がリードしインフラや法制度を整えるという。こうした大規模な試みは、テクノロジーの検証とともに、膨大なデータの収集、それに基づくAIチューニングの進展という観点からも大きな意味を持つ。

 スマートシティに関しては、杭州市において「シティブレイン」というプロジェクトが進む。監視カメラを使い、渋滞への迅速な対応を可能にしたほか、顔や車のAI認証によって犯罪防止に役立てている。

今ある技術の活用を始めることが重要

 AI分野は米中がリードし、ビジネスや生活にイノベーションを起こそうとしている。これらの動きから分かることは、AIの強い分野や、その応用可能性だ。AIアシスタント、音声認識、画像認識の技術の応用分野は広がり、活用も広がっている。AIを活用して自社の仕組みや製品/サービスの改革を検討することは、今後の競争力を考えるうえで重要な戦略になる。

 実現にあたっては、人材と投資が必要だが、すべてを自社開発しなくても、AI関連サービスを応用することで、より簡単に活用が図れる。たとえばキユーピーがAIの画像認識によりベビーフードに使うダイスポテトの品質不良やカット不良の選別や、セブン-イレブン・ジャパンの音声AIを使った弁当や食材セットなどを店舗で受け取るサービスは、いずれもGoogleのAIサービスを活用している。

 このように、今時点で利用可能なAI技術を知り、実際に活用を始めてみることも、将来の本格的なAI化を進めるうえで重要である。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。