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AIによって変わる企業競争、先行する米国に中国が肉薄【第11回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年7月16日

第3回『AI(人工知能)のデジタル変革における可能性と活用』において、AIによって変革できる顧客価値や自社のプロセス、仕事の仕組み、さらにはAIを使った新しいビジネスモデルの検討を続けることの必要性を説いた。この動きは加速し競争が激化している。今回は、AIが引き起こしているデジタルトランスフォーメーション(DX)による企業の変化と競争から、今後を考えてみたい。

 AI(人工知能)の活用が広がっている。AIは、さまざまな分野で膨大なデータを基に最適解やルールを見つけだし、画像認識や音声認識の活用が広がっている。音声認識を活用したスマートスピーカーは、家庭へと広がっている。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れは、デジタルテクノロジーの役割を、ビジネスの“支援”からビジネスの“中核”へと変えていく(図1)。

図1:「NGMN(Next Generation Mobile Network alliance)」が挙げる5Gのユースケース

 たとえばスマートスピーカーは、音声認識・音声応答のAIとクラウドが結びつくことで、新しい製品とその市場を作り上げた。米ストラテジー・アナリティックスによれば、2018年第1四半期の全世界での出荷台数は920万台にまで成長している。

 その内訳は、トップが米Amazon.comの400万台。それに米Googleの240万台、中国アリババの70万台、米Appleの60万台が続いている。この中でGoogleは前年比709%増と急成長した。市場シェアはAmazonの43.6%に対し、Googleは25.6%を占めた。

 このようにAIは、製品/サービスの価値の中核になり、新製品を生み出し、既存の市場を大きく変えていく。AIを取り込んだ製品が広がることによって、顧客の意識も変わり、さらに新しい製品/サービスのシーズを生み出していく。

製品の価値を生み出すソフトウェア技術力が重要に

 そうしたAI時代へ対応するためには、企業として、投資や人材などの企業戦略を変えていかねばならない。その端的な例として、トヨタ自動車とパナソニックの取り組みを挙げられる。

 トヨタは2018年3月、新会社「Toyota Research Institute Advanced Development(TRI-AD)」を東京に設立した。3000憶円以上の開発投資と1000人規模の体制をもって、「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実現に向けた自動運転技術や、自動運転用地図の自動生成技術、およびそれらのSDK(ソフトウェア開発キット)などのソフトウェアを開発する。自動運転カーやコネクティッドカーでの競争力を確保するための布石だ。

 一方パナソニックは、AI分野の技術者を、現在の約100人から今後5年以内に1000〜1500人に増員する計画を打ち出している。同社が展開する幅広い製品群へのAI導入を加速することが狙いである。

 自動車やスマート家電、スマート機器などでは、製品の価値を左右するテクノロジーが、ハードウェアからAIなどのソフトウェアに移っている。ソフトウェア技術力と、それを機器へ迅速に応用できる体制が必要になる。そうした状況に対応するため、激しい人材獲得競争が繰り広げられており、全世界でAI人材が70万人不足するとも言われている。

 激しい競争の中で戦っていくためには、テクノロジーとその応用を開発・進化し続けるための研究開発が不可欠だ。そのために膨大な研究開発投資が投じられている。米主要企業の状況をみると、Amazonの研究開発費は226億ドルと、2兆円を超える投資がテクノロジーやテクノロジーの応用に使われている。Googleは166億ドル、米Microsoftが123憶ドル、Appleが116億ドルと続くものの、Amazonが群を抜いている。