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  • 大和敏彦のデジタル未来予測

変貌する小売り、金融、製造の姿、デジタルテクノロジーが競争力の源泉【第12回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年8月20日

 プロセスや仕組みの改革の成果は、QCD(Qualit、Cost、Delivery)、すなわち品質、コスト、スピードといった形で生まれる。だが、これらを実現するためには、デジタルテクノロジーだけでなく、さまざまな要素が絡んでくる。インテリジェントな製造業に向けた競争は激しくなる一方だ。

 その改革は、デジタルテクノロジーを活用した生産性向上や効率化、生産の柔軟性の実現、データの共有・活用による予測と最適化といった形で進められる。

中国が2020年に世界製造力ランキング2位に

 2020年の世界の製造力ランキングについて米Deloitte と米競争力評議会は「1位:米国、2位:中国、3位:ドイツ、4位:日本、5位:インド」と予測する。評価点は、研究・技術・イノベーションへの投資を基に、サプライチェーンやデマンドチェーン、デジタルテクノロジーによるリアルとデジタルの統合(CPS:Cyber Physical System)の実現、イノベーションや変化のスピードである。

 同ランキングで第2位の中国は、「中国製造2025」と呼ぶ国家戦略を掲げ、2025年に世界の製造強豪国の1つになることを目指している。第一段階として生産額で米国を上回り「世界の工場」になったものの、付加価値やブランド力、生産性などでは、米日独に後れを取っているからだ。

 中国製造2025の重点分野は、情報技術、素材技術、省エネ技術から、ロボットや製造設備、航空・宇宙、海洋、鉄道、農業、医療までを含んでいる(表2)。情報技術が一番に挙げられていることが、デジタルテクノロジーの重要性を示している。

表2:「中国製造2025」が掲げる重点分野
優先順位分野
次世代情報技術(半導体、通信機器、ソフトウェア)
デジタル制御の高度工作機械・ロボット(統合製造システム)
航空・宇宙設備(航空用機器、宇宙用機器)
海洋エンジニアリング・ハイテク船舶
先端的鉄道設備
省エネ・新エネ自動車
電力設備
農業用機材
新素材(超電導、ナノ素材)
10バイオ医療・高性能医療器械

 製品/サービスとともに、製造方法やプロセス、仕組みを大きく変えていくためにもテクノロジーの活用は欠かせない。それらを迅速に実現し、安定した運用を行うことも必要だ。データ共有とデータを活用した予測や全体最適を実現できる仕組みの構築も必要になる。

人材と、彼らが活発に動けるカルチャーが必要に

 これら小売業や金融業、製造業の動向から分かるように、デジタル化の波は、市場を大きく変え、巨大企業でさえ大きなチャレンジを受けている。別の見方をすれば、それはチャンスでもある。デジタル化は顧客価値も変え、リアルの世界をも変えていく。変化のスピードは速まり、成功したビジネスモデルがグローバルに広がっていく。

 そうした中で成功するには、プラットフォームを含めたデジタル化の戦略が不可欠である。その構築には、デジタルテクノロジーの動向や活用方法を理解し顧客価値を先取りしたイノベーションやビジネスモデルを考える人材、プラットフォームや全体アーキテクチャーを考えられる人材、さらには、それら人材が活発に動けるカルチャーと体制が必要である。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。