- Column
- 大和敏彦のデジタル未来予測
変貌する小売り、金融、製造の姿、デジタルテクノロジーが競争力の源泉【第12回】
第1回『テクノロジーが変える社会』において、デジタルテクノロジー(DT)とデジタルトランスフォーメーション(DX)の最新状況を紹介した。その後も、デジタル化による変革や顧客価値の変化はさらに加速し、企業の競争力においてデジタルテクノロジー(DT)とその応用は重要度を増している。小売り、金融、製造の3つの業界を例に、DXの進捗と成功に向けて必要なことを考えてみたい。
『テクノロジーが変える社会』(2017年9月)において筆者は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の状況について、(1)デジタル企業がリードする社会、(2)スマホの浸透が変えるビジネス、(3)ネットとリアルの融合の3つの視点を紹介した。
約1年が経った2018年8月時点で、DXはどのように進展してきたのか。小売り、金融、製造のそれぞれの業界について見ていこう。
小売業におけるDXの進捗
小売業界では、米Amazon.comのリードによって市場が大きく変わり、その変化のスピードは加速している。Amazonの急成長に伴い、市場で進行している、さまざまな変革や、それに伴う混乱を指して「アマゾンエフェクト」という言葉も生まれた。
Amazonの急成長は続いており、2018年第2四半期の業績も、売上高は前年度比39%増の529憶ドル、純利益は同13倍の25億ドルに達した。世界の小売業ランキングでも、2015年に初めてトップ10入りを果たし、2016年には6位にまで順位を上げている。
株価も上昇を続け、株価時価総額は2017年8月2日時点の4760億ドルから、8818憶ドル(2018年7月27日時点)と約85%増加した。米Microsoft、米Alpahbet(Google)を抜き、米Apple に続く世界第2位になる。
同社は、クラウドサービスの「AWS(Amazon Web Services)」や、AI(人工知能)/音声アシスタントの「Alexa」など、コンピュータービジョンやドローンといったテクノロジーへ投資し、その応用によって自社のサービスや仕組みを改革することで、顧客に提供するユーザーエクスペリエンス(UX)を進化させ続けている。
AWSは、Amazonのビジネスを支えるプラットフォームであると同時に、それ自身の業績も売上高の11.5%を占めるまでに成長した。売上高は61億ドル、営業利益16億ドルを上げている。顧客とのつながりを強める施策である「Amazon Prime」は会員数が世界で1億人を突破した。
ネットの世界からリアルな世界への変革も進む。「Amazon Go」や「Amazon Books」といった実店舗における新しいUXの実現や、高級スーパーのWhole Foods Marketの買収や大手家電量販店BestBuyとの提携など、市場そのものを変化させてもいる。
結果、米トイザラスは倒産に追い込まれ、小売業No.1 の米ウォールマートも戦略の見直しを迫られている。ウォールマートは、DXを進めるためにデジタル企業との提携強化に動いている。たとえば、GoogleとはAIスピーカによる商品注文のインターネット通販事業と自動運転車での送迎に関して提携。Microsoftとは、同社のクラウドサービス「Microsoft Azure」を推奨クラウドプロバイダーに選定したと2018年7月に発表した。
Amazonは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」をミッションに掲げ、年間2兆円を超える投資によってイノベーションを続けている。先進デジタルテクノロジー(DT)へ投資し、そのDTを理解して活用を考え、顧客価値を先取りし、それを迅速に実現していく。こうしたサイクルが、激化する競争に勝つためには必要とされている。
金融におけるDXの進捗
金融業は、そこでのデジタルテクノロジーの活用を意味する「Fintech(Finance Technology)」によって大きな変革が起きつつある。2017年11月、金融市場の変革に立ち向かうため、日本の3メガバンクグループが合計で3万2000人分の業務量を削減することを打ち出した。
Fintechは、既存の金融の仕組みや利用法を大きく変えようとしている。Fintechの先端企業が選ばれている『2017 Fintech 100』(米KPMG)から、その動向を見てみよう。同リストの選択基準は、規模や資金調達額、業界の牽引度、テクノロジーイノベーション、新しいビジネスモデルによる革新性などである。