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変貌する小売り、金融、製造の姿、デジタルテクノロジーが競争力の源泉【第12回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年8月20日

Fintechトップ10に既存の金融機関はいない

 表1に、Fintech100のトップ10を示す。オンラインレンディングや、ペイメント、オンラインバンクなど、保険と金融ビジネスの広い分野で新しい仕組みをFintechが生み出している。レンディングを例にとると、担保や保証人は必要なく、データに基づいた信用力によって、迅速に、さまざま貸し手からお金を借りることが可能になっている。

表1:『2017 Fintech 100』 (米KPMG)が選ぶFintech企業のトップ10
順位会社名概要
Ant Financial(中国)アリババの金融グループ
ZhongAn(中国)オンライン保険
Qudian(Qufenqi)(中国)オンラインマイクロクレジット
Oscar(米国)健康保険
Avant(米国)個人ローン
Lufax(中国)P2Pレンディング
Kreditech(ドイツ)個人ローン
Atom Bank(英国)アプリケーションによる銀行業務
JD Finance(中国)JD.comの金融グループ
10Kabbage(米国)中小企業向けオンライン無担保融資

 このトップ10に既存の金融機関の姿はない。共通しているのは、「デジタル企業であり、ビッグデータの収集と分析を金融サービスに活用することによって、新しい顧客価値を実現するビジネスモデルを実践している会社」ということである。

 データの活用も高度化が始まっている。データを単体のサービスで活用するだけでなく、蓄積されたデータの解析から新しい顧客価値を生み出す例が生まれている。第8回『中国アリババのFintechにみるデータの高度活用法』で紹介した中国アントファイナンスのように、ネット販売に関するビッグデータから、顧客の経済状況や動向、さらには信用を推測することで、顧客が必要としている時に必要なサービスの提案を可能にし、新サービスへとビジネスを広げている。

 これを実現するには、ビッグデータとしてのデータの集中と高度な解析が重要になってくる。そうした理由から、Goldman SachsやCitibankなど米国の大手金融機関は、当初のベンチャー企業と協業する戦略から、自社での実践へと戦略を変えてきている。

 これは、AIやRPA(Robotic Process Automation)を活用しての既存業務の自動化や効率化の域を越えている。デジタルテクノロジーとデータ活用による新しいビジネスモデルへの準備が必要になっている。

製造業におけるDXの進捗

 製造業においても、テクノロジーの活用と、競争優位の源泉をハードウェアからソフトウェアに切り替えることが、競争力と成長のカギになってきた。進むべき方向の1つが、自動運転やスマート機器/スマート家電など製品自体への先端デジタルテクノロジーの活用。もう1つが、インダストリー4.0に代表される製造方法やプロセス、仕組みの変革である。

 後者の変革は、競争も激化しているが、その効果を得るには時間を要する。「Industrial Internet(II)」を主導し、製造業の変革をリードしてきた米GEですら業績を悪化させている。GEはジェフ・イメルトCEOのもと、テクノロジー、特にソフトウェアとその応用技術に投資し、変化のスピードを速める改革を推進してきた。だがイメルト氏は、結果を出せず2017年にCEOを退任。2018年6月には、米ダウ工業株30種平均の構成銘柄から外された。

 2018年第2四半期の決算では、純利益は前年比30%減の6億1500万ドルにとどまった。デジタル化の中心であったGEデジタルも、独シーメンスなどの同業、あるいは米IBMなどのデジタルテクノロジー業界との競争が激しく、「2020年に150億ドル」としていた売り上げ目標を2017年に撤回している。

 GEは、製造ソリューションのプラットフォーマーを目指し、「PREDIX」と呼ぶPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を自社で作り上げ、その上で動作するIoTアプリケーションとプラットフォームを他社にも展開してきた。しかしプラットフォームビジネスは、AWSやAzureが高いシェアを持って機能強化を続けており、自社プラットフォームで戦っていくことは難しい。

 結局GEは2018年7月、Microsoftとの提携を拡大し、AzureをPREDIXソリューションの標準クラウドプラットフォームに位置付け、PREDIXとAzureの IoTやAI、アナリティックスなどを統合することを決めた。