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Uberが証明!?デジタルトランスフォーメーションの本質と4つの障壁【第13回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年9月17日

「DXを完了」は認識を誤っている

 次に実践状況に関する質問「DXの状況を基も適切に表すのは?」に対する回答は表3の通りである。

表3:「DXの状況を基も適切に表すのは?」に対する回答(米Forrester Research調べ)
状況回答率
現在推進中56%
検討中16%
カイゼン中、完了はしていない7%
完了21%

 ただし、この結果についてForresterは、「『完了』とする21%の回答は(認識が)間違っている。DXは終わりのない努力によって継続し続けるものである」と指摘している。

 つまり、カルチャーや組織、仕組みやテクノロジーの活用に取り組んでも、その結果がビジネスの成果を生み、それが次に続いていく“正のスパイラル”が実現できなければ価値がない。ビジネスの視点に基づき、継続的なイノベーションを実践できる会社に変革することがDXの本質である。

 ただし、すべての会社がDXに取り組む必要はない。自社の強みが継続して生かせ、市場に対応して業績が好調であれば、DXは不要だ。しかし、テクノロジーの進化や市場破壊の動き、顧客価値の変化はさまざまな分野で起こっている。市場や競合の動向把握、テクノロジーの活用検討はすべての会社が行うべきである。

 自動化や生産性の向上、カスタマーエクスペリエンス(UX)の進化、SCM(サプライチェーンマネジメント)の変革などの動向をとらえるとともに、テクノロジーを活用した製品の変革、顧客への価値提供、データを活用した新しいビジネス機会の活用が企業の成長につながる。

移動”に関する顧客価値を実現し続ける米Uberのチャレンジ

 DXの実現は、会社が方向性を明確にし、数々の障壁にチャレンジしていくことによって現実のものとなる。イノベーションを実現しているベンチャー企業は多いが、その中で成長していくためには“継続的な”イノベーションが必要になる。継続的なイノベーション実践の例として、米ライドシェア大手のUber Technologiesの動きを見てみよう。

 Uberは2009年3月に創業し、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築した。2016年には、フードデリバリーサービス「Uber Eats」を始めるなど“輸送業界のAmazon”をビジョンに、イノベーションの実現にチャレンジを続けている。2017年の予約売上は370憶ドルに達している。

 レンタカー分野では、個人間のカーシェリングやレンタルを提供する米Gataroundと協業し、車のレンタルサービスの提供を始めている。公共交通機関の駅と家の間の移動も、同分野大手のLimeに出資しサービスを提供している。「Uberプール」と呼ぶ場所に自転車やスクータを準備し移動手段として提供する。公共交通機関のチケットも米Masabiとの提携によってサービスに追加した。

 このようにUberは“移動”に関して、あらゆる顧客価値を実現すべくサービス範囲を広げ、プラットフォーマーとしての立ち位置を強化している。日本では、タクシー配車サービスと称されることもある。だが創業時こそタクシーの代替サービスではあったが、そのサービス範囲はもはやタクシーのそれを超えている。

 当然、テクノロジーには継続的に投資をしている。たとえば自動運転に関しては、自動運転トラックのスタートアップ企業、米Ottoを6億8000万ドルで買収し、ペンシルバニア州とアリゾナ州で自動運転車の実証実験を実施した。事故が起きたことにより中断したものの、トラック部門を閉鎖し乗用車の自動運転に注力することでピッツバーグでの公道テストに復帰している。

 空飛ぶクルマへの投資と実現にも力を入れる。空飛ぶクルマを使ったサービス提供を2017年に発表し、市街地と空港を結ぶ相乗りタクシー事業を2023年にも始める構想を掲げている。規制や課題の解決に向けて、自らがサービス展開や機体の開発、官との協力を目指す国際会議の開催など、アイデアの創出と障壁の解消などにチャレンジを続けている。