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Uberが証明!?デジタルトランスフォーメーションの本質と4つの障壁【第13回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年9月17日

DXを妨げる4つの壁

 Forresterの調査結果とUberのチャレンジ内容を基に、DXを進める上での課題や考慮点を考えてみたい。DXは会社のカルチャーや組織、プロセスを変える変革であるだけに、いくつもの障壁が存在する。中でも大きな障壁が次の4つである。

障壁1:カルチャー変革や迅速化に対する抵抗

 カルチャーを変えていくのは簡単ではない。会社のビジョンやミッションを明確にし、その変革への意志を全社で共有し進めていかなければいけない。さらに、それに基づいた組織を作り、組織や個人の評価も変革の方針に合ったものに変える必要がある。

 新しいことにチャレンジする障壁を低くして、アイデアや提案が出やすくするとともに、承認プロセスや承認基準も、迅速性や挑戦を許容できるものに変えなければならない。

障壁2:テクノロジー活用とビジネス目標との不整合

 テクノロジーの活用が目的になってしまい、成長や利益、他のビジネスとの関連といったビジネス目標とかい離しては改革の意味がない。市場の動向を見据えながら、テクノロジー動向やインパクトをとらえ、テクノロジーの活用がどうビジネスの成果に結びつくのか、または新ビジネスとしての成功要因になるかなどをビジネス面からの判断する必要がある。

障壁3:人材のミスマッチ

 第11回『AIによって変わる企業競争、先行する米国に中国が肉薄』でAI(人工知能)人材について触れたように、テクノロジー人材に加えて、ビジネスモデル開発やデザイン思考、顧客価値志向を持つ人材が必要である。

 必要なスキルに基づいた人材計画を立て、育成や採用、M&A(企業の統合・買収)、オープンイノベーションなどの戦略により、スキルの拡充を図っていかねばならない。

障壁4:古いインフラ

 変化のスピードを上げようとしても、開発や運用のインフラが適切でないと、ビジネスの実現や継続的な発展のボトルネックになる。既存ITのための保守費用や人材アサインが、新しいテクノロジーへの投資や人材活用の足かせになる。デジタルプラットフォームとして、開発や運用のツールを完備し、柔軟で動的にITリソースが活用でき、使いやすく調整しやすいインフラが必要である。

 最新テクノロジーへも対応できなければいけない。これらが可能なインフラがクラウドである。ビジネスに必要な機能をクラウドの活用によって実現すれば、柔軟性や迅速性を確保できる。

 セキュリティも重要だ。ビジネス自体やサービスにテクノロジーを活用し、さまざまなものがネットワークでつながる“Connected”を実現すれば、半面セキュリティの脅威は増す。セキュリティへの懸念からデジタル化を躊躇している例もある。GDPR(EU一般データ保護規則)のようなコンプライアンスへの対応も不可欠だ。

 これらの対応や対策をすべて自社で行おうとすると、人材や費用の面での投資が大きくなる。これに対する解もクラウドの活用だ。大手クラウド事業者は、物理的にもサイバー的にもセキュリティを設計し、継続的なモニタリングやテストといった強固な対策を打ち、セキュリティ認証や認定の取得および世界中のセキュリティコンプライアンスに対応している。

 さらに利用企業ごとのセキュリティ要求に対応するためのツールやサービスも提供されている。それらを適切に使えば、自社のリソースを保護できる。

市場や顧客価値はイノベーターが速いスピードで変えていく

 これら障壁の観点からUberの動きを改めて見てみると、ビジョンに基づきイノベーションを起こすカルチャーや体制、それを支えるデジタルプラットフォームが十分に機能していることが分かる。Uberのような企業によって市場や顧客価値が速いスピードで変わっていく。現在のリーダーであっても、変革をとらえて手を打っていかなければ、その存在は脅かされかねない。

 このようにDXとは、市場や顧客価値の変化に迅速に対応するために、イノベーションを継続的に起こしていける会社に変革することである。顧客の価値を先取りし、自社のビジネスを破壊するようなイノベーションにもチャレンジしながら、迅速に変わっていく企業が生まれている。そうした競争への対応が、すべての企業において必要になってきているのである。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。