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トヨタとソフトバンク提携の意味、避けられぬ製造業のサービス化【第15回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年11月19日

 ソフトバンクは、米Uber、中国の滴滴出行(DiDi)、シンガポールのGrab、インドのOlaなどMaaSのトップランナーの筆頭株主だ。これら4社合計で、2017年度の運賃収入は7兆円、1日の乗車回数は3500万回にのぼるという。各社とも、世界中で提供する移動サービスによって、顧客や利用履歴の膨大なデータを蓄積。そのデータを使って品質と顧客満足度が高いサービスを提供している。

 これら蓄積されたデータは、自動運転車と結びつくことで、顧客にとって価値があり、提供者にとっても効率的なMaaSサービスの提供が可能になる。それだけではなく、データの多面的活用を図ることで、データの価値をますます高めていく。そうしたMaaSの未来に関して、ビジョンを描き、その準備を着実に進めてきたのがソフトバンクだ。「MaaSのプラットフォーマー」を目指すトヨタが、ソフトバンクをパートナーに選択したことは当然ともいえる。

MaaSが進めば車の販売台数は減少する

 トヨタ自身も、自動運転やMaaSの領域では積極的に投資している。AI技術者を大量に募集し、自動運転技術だけでなく、自動運転技術を活用した製品にも力を入れている。2018年1月に米CESでは、MaaS専用のEV(電気自動車)車両「e-Palette Concept」も発表した(図1)。

図1:「e-Palette Concept」のイメージ図

 e-Paletteは、自動運転技術を活用し、箱や部屋が移動するというアイデアを実現しようとするものだ。全長が異なる3サイズの車両があり、ライドシェアのほか、ホテルや小売店舗といった仕様を持たせることで、新しいモバイル体験の実現を狙っている。利用シーンとしては、自動運転によるライドシェア、小売りや飲食、ホテルなどの移動店舗サービス、自動物流サービスなどを想定している。

 このようなMaaS専用車が登場すれば、MaaSの活用はさらに加速し、既存の自動車購入層の減少につながる。企業での活用も広がり、車の販売台数の減少は止まらない。にもかかわらずトヨタがMaaSに取り組む理由は、どこにあるのだろうか。

 MaaS事業者が自動運転に投資しているように、自動運転技術によって運転者が不要になり、MaaS事業者自身が自動車を所有してサービスを提供することが考えられる。そうなると、大量に自動車を購買するMaaS事業者のバーゲニングパワーは強くなり、逆に自動車製造者の立場は弱くなる。さらには、MaaS事業者自身がクルマの製造を委託し、購買そのものがなくなってしまうことも考えられる。

 このようにサービス化は、顧客とサービス提供者、および製造業者の関係を変えていく。そこでは、移動以外の価値を持つか差別化ができる製品でなければ販売台数は減少をたどるばかりだ。MaaSにおいて自動車というハードウェアは、移動・運搬を提供するサービスを構成する“部品”にすぎない。自動車会社の未来と成長を考えるうえで、モノの製造・販売によって収益を得るモデルから、サービスモデルであるMaaSへの対応は不可欠なのだ。

コンピューター業界ではすでに顧客との関係変化が起こっている

 こうした顧客との関係変化の実例を、コンピューター業界の変遷に見ることができる。

 クラウドサービスのIaaS(Infrastructure as a Service)が急成長している。2018年第2四半期のクラウドインフラ市場は、前年度比47%の200憶ドル規模に成長している。

 IaaSは、サーバーやストレージなどIT機器が持つ機能をクラウド経由で提供するサービスで、顧客自らがIT機器を所有する必要をなくした。この流れにより、かつては米IBM、米HP、米Dellなどサーバーのハードウェアメーカーがリーダーだった分野が、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platformなどのクラウド事業者に取って代わられた。