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トヨタとソフトバンク提携の意味、避けられぬ製造業のサービス化【第15回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年11月19日

自動車業界へのデジタルトランスフォーメーション(DX)のインパクトを象徴する大きなニュースが発表された。トヨタ自動車とソフトバンクが、新しいモビリティサービスを実現するための新会社「MONET Technologies」を共同出資で設立し、2018年度内をメドに事業を開始するという。今回は、自動車業界を例に、製造業におけるDXと、そこでのサービス化(XaaS化)の意味について考えてみたい。

 2018年10月4日、株価時価総額日本一のトヨタ自動車と、同2位のソフトバンクが提携を発表した。これからのモビリティサービスを実現するための新会社「MONET(モネ)Technologies」を合弁で設立し、2018年度内をメドに事業を開始する。

 今回の発表は、次世代モビリティという重要な分野であること、トヨタとソフトバンクという組み合わせ、そしてトヨタ側から提携を持ち掛けたなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって自動車業界が大きく変化してきたことが感じられる。

 第12回『変貌する小売り、金融、製造の姿、デジタルテクノロジーが競争力の源泉』において、製造業の競争力と成長のカギは、テクノロジーの活用と、競争優位の源泉をハードウェアからソフトウェアに切り替えることだと指摘した。そして、進むべき方向の1つが、自動運転やスマート機器/スマート家電など製品自体への先端デジタルテクノロジーの活用だと述べた。

 デジタル化によって製品やサービスが変わり、それによって顧客価値が変わっていく。その市場変化に対応できなければビジネスは縮小し、生き残りさえ難しくなる。小売業では、米Amazon.comによる市場変革の結果、経営が悪化する企業が増え、老舗百貨店の米シアーズも経営破綻した。

 自動車業界は今、AI(人工知能)の応用分野である「自動運転」というテクノロジーによって、自動車そのものが変わろうとしている。デジタルトランスフォーメーションは、自動車自体の差別化要因を変えるにとどまらず、「ライドシェア」と呼ばれる顧客の移動手段の選択肢を増やした。

 顧客価値の変化に対応せず、過去の顧客価値に対応する製品を最新のテクノロジーで強化しても、企業の成長は難しい。このような市場環境が、トヨタとソフトバンクの提携につながったのだ。

自動車関連企業に積極投資してきたソフトバンク

 ライドシェアは、米Uber Technologiesのサービス開始によって一気に認知された。タクシーに代わって、便利さや品質の高い移動手段を提供するサービスとして広がってきた。これにより、移動時にライドシェアを選ぶという顧客意識の変革が起こり、自らが運転して移動することが減り、結果として自動車の購入と所有が減少した。実際、英国では、Uberの参入により若者の免許取得率が6%下がったという。自動車販売台数の減少は、自動車会社のビジネスにマイナスの影響を与える。

 一方でライドシェアは、人やモノの移動を支援する「MaaS(Mobility as a Service)」へ発展している。その活用シーンの広がりにより、活用頻度が高まり、価値も上がっていく。自動運転技術が実用になれば、MaaSサービスの利便性はさらに高まり、活用シーンもさらに広がる。市場ニーズとしても、人口が集中する主要都市では、交通手段の提供と渋滞緩和、環境問題への対策として期待が高まっている。同時に過疎化が進む地方都市でも、交通手段や高齢化対策としての期待が高い。

 このような市場変化を先読みし、投資を進めてきたのがソフトバンクだ。ソフトバンクのコーポレートVC(ベンチャーキャピタル)であるビジョンファンドは、AIの未来に焦点を当て、さまざまな分野でAI関連サービスに注力するトップランナー企業に投資し“ファミリー”に迎え入れる「群戦略」と呼ぶ戦略を孫氏自らが展開している。

 自動車分野でも多数の企業に投資している。なかでもMaaSに関してはグローバルなファミリー化を図っている(表1)。

表1:ソフトバンクが投資する主な自動車関連企業。各国でMaaS(Mobility as a Service)に投資していることがわかる
会社名事業概要
米BrainAI(人工知能)による自動走行システム開発
米Cruise Automation(現GM Cruise)自動運転技術の開発。米GMが買収
米MapBox地図情報プラットフォームの提供
米NautoAIによる安全運転支援サービス
米Uber TechnologiesMaaS(Mobility as a Service)
独AUTO1GROUP欧州第一位の中古車マーケットプレイス
中国・滴滴出行(DiDi)MaaS
中国Full Track Alliance中国第一位のトラックマッチングサービス
シンガポールGrabMaaS
インドOlaMaaS