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トヨタとソフトバンク提携の意味、避けられぬ製造業のサービス化【第15回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年11月19日

 クラウド事業の広がりによって、ハードウェアの販売台数は減り、最大の購入者はクラウド事業者になった。クラウド事業者は、膨大な数のIT機器を購入するため強力なバーゲニングパワーを持ち、ハードウェアベンダーの力は、さらに弱まった。クラウド事業者は、さらに力をつけ、自らが必要とするIT機器の仕様を決め、メーカーに製造委託するところにまで進んできている。顧客から競合への変化である(図2)。

図2:コンピュータハードウェア分野における、顧客と機器ベンダーとクラウド事業者の関係の変化

 こうしたコンピューター業界の変遷は、インターネットの進化と広がりによって起こった。現在のMaaSなども、自動車がネットにつながる「コネクトテッドカー」になることで実現可能になるビジネスモデルである。移動における自動車が、MaaSの広がりによって、コンピューターのハードウェア同様に変化しても、何ら不思議はないだろう。これからの製造業は、モノのサービス化に伴って、顧客や競合が変わっていくことを想定した準備が必要になる。

機能自体を簡単・安価に提供するサービスのほうが選ばれやすい

 コネクテッドな時代には、クラウドサービスのように、顧客が必要な機能を、必要な時に、使用しただけの料金によって利用可能になる。客先にある機器自体の稼働状況や使用状況をモニターし、そこから収集できるデータに基づいた保守や、製品を販売せずに貸し出すというサービス化も可能になる。

 顧客にすれば、多くの場合は製品が備えている機能が必要なのであり、これまでは、それを手に入れるために製品を購買してきた。製品の機能自体をより簡単に、より安価に提供されるサービスがあれば、そのサービスが選ばれる可能性は高い。

 顧客が望む価値が「所有」なのか「使用」なのかを見極め、「使用」であれば、どうすればサービス化が可能であるかを検討する必要がある。その対応が遅れれば、既存の競合だけでなく、思いも寄らぬ業界からの参入に脅かされるかもしれない。サービス化の波は、顧客の変化や競合の変化など、製品メーカーにとって大きなインパクトを与える。

 製品そのものにAIやIoTなどの先進テクノロジーを適用することも、製品の差別化や顧客要求の実現のためには重要である。だが、顧客の要求が機能の活用であれば、サービスとしての提供を検討すべきである。サービス化によってデータを収集し、そのデータにより顧客価値を把握し、精度の高い予測を実行することで、サービスだけでなく製品自体の改善も可能になる。

 自動車業界のMaaSのようなサービス化の動きは、他業界でも確実に起きつつある。今後の市場動向や顧客価値の変化をとらえ、それが現在の製品やサービスの進化なのか、あるいは、さらに進んだサービスが求められているのかを見極め、それに向けて何をすべきかを考えなければならない。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。