- Column
- 大和敏彦のデジタル未来予測
製品のサービス化とシェアリングエコノミーのサービス化の共通点と相違点【第16回】
利用者と提供者の双方にメリットを与えることが成長につながる
オンライン旅行予約サイト大手の米Expediaは、シェアリングサービスの米Homeawayを買収し、民泊サービスを取り込んだ。ホテルグループも買収による規模の拡大や会員サービスの強化を図っている。マリオットグループはスターウッドグループを買収し、現在世界中に5500のホテルと110万室を有する(Bloombergデータ)ホテル業界最大のグループとなった。
しかし、Airbnbは、現在190カ国以上150万室以上にまでの急成長しており、マリオットの規模を越えている。数だけでなく、Airbnbはユニークな体験を希望する顧客向けに、マンションやアパートの部屋だけでなく、一戸建て、別荘、ヨット、城まで選択できる。
Airbnbは、利用者に安価で豊富な選択肢というメリットを提供するだけでなく、スペースの提供者にもメリットを提供している。使っていない場所を貸すことで収入を生み出し、場所にもよるが、期間を定めた貸し出しよりも、より多くの収入を得られるチャンスも提供している。
これらのメリットによって提供者が増加し、規模は大きくなっていく。利用者と提供者の両方のメリットをAirbnbが実現することによって、ビジネスとして成長していくわけだ。
(2)データに基づく評価と信頼
利用者が選ぶには、便利さとともに安心して使えることが大事である。安心して使うための評価や信頼がネットの広がりによって変わってきた。シェアリングエコノミーでは、知らない人のモノを使ったり、知らない人に使わせたりする。その際の参考情報がデータやコメントである。
インターネットの活用が広がることによって、知っている人や知っている会社といった信用に加え、ネット上のコメントやデータに基づく評価が、信頼の参照対象になった。評価や、それを元にしたランキングやコメント“いいね”などが共有され、ネット上の信頼の目安になってきた。
さまざまなデータや履歴がデータとして蓄積され、それをビッグデータ解析することによって、リコメンデーションやマーケティングにつながっていく。このようにデータの重要性は増してきた。
シェアリングサービスでは、利用者だけでなく提供者も評価する仕組みを導入しており、参加者の信用の保証と選択の目安として提供している。このようなデータによる信用情報は、シェアリングサービスを安心して利用するための基盤であり、サービスの成功要因となる。
データに基づく評価が新たな価値を生む
データに基づいた信用の活用は、Fintechにおける信用審査や人事採用など、さまざまな場面で使われており、さまざまなインパクトを世の中に与えていく。中国アリババグループのアント ファイナンシャルの芝麻信用は、そのデータに基づいた信用をさらに進化させ、信用基準を点数化しプラットフォームとして提供している。
インターネットの発達により、人と人、人とモノ、モノとモノ、所有者と利用者を結びつけるのが容易になった。さらに、データによる評価が加わることによって、そのつながりの活用の可能性が広がっていく。AI、センサー、IoT、5Gネットワークなどのテクノロジーの進化によって、つながる機能がさらに広がっていく。つながる機能はデータとデータに基づいた評価によって、さらに価値と可能性を高める。
一方、データの重要性は増すため、安心して使用者が使えるためには、個人情報や履歴などのデータに対する規制の順守や、不正やサイバー攻撃に対するセキュリティ対策の重要性も増していく。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。