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製品のサービス化とシェアリングエコノミーのサービス化の共通点と相違点【第16回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年12月17日

前回の『トヨタとソフトバンク提携の意味、避けられぬ製造業のサービス化』においてMaaS(Mobility as a Service)について触れた。今回は、メーカーを主体としたモノの販売からサービスへの変革を図る「製品のサービス化」と、顧客価値が主体で始まった「シェリングエコノミーにおけるサービス化」の、それぞれの背景を考えてみたい。

 インターネットやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の進化、センサーの多様化や廉価化により、客先にある製品とメーカーがつながり、製品の状態や稼働状況を把握できるようになった。この仕組みを利用して始まったのが、顧客が必要とする機能をサービスとして提供するビジネスモデルである。これを「製品(モノ)のサービス化」と呼ぶ。

 製品のサービス化が、広く知られるようになったのは、英Rolls Royceや米GEが始めた旅客機用ジェットエンジンをサービスとして提供するビジネスモデルだ。「Power by the Hour」と呼ばれ、エンジンを稼働時間単価で貸し出す。

 Power by the Hourでは、1機当たり数百のセンサーによって収集した稼働状況や温度、燃料消費量などのデータに基づき、全世界で稼働しているエンジンを24時間監視する。故障の予兆が見つかれば早期に対処する。これにより、エンジンのユーザーである航空会社は、急なトラブルに起因する飛行スケジュールの変更を減らせ、予定外の支出を避けられる。

 エンジンメーカーとしても、データに基づいて早期対処ができるだけでなく、データを解析することで、エンジンの改善や新製品の開発につなげられる。収集したデータを元に新しいサービスの開発の可能性も出てくる。実際GEでは、データの解析結果から、燃料消費率の向上策や、飛行機の制御方法などをアドバイスするサービスを提供している。

 こうしたデータに基づく保守や製品のサービス化の動きは確実に広がっている。単一の機械にとどまらず、より複雑な仕組みの監視や運用にも適用され始めた。GEを例にとれば、彼らはデータ収集によって形作られる「デジタルツイン」を使って、現実の仕組みをクラウド上に写し取っている。

 発電所の仕組みを写し取った「デジタルパワープラント」が、その1つである。実際の発電所から上がってくるデータを基に監視し、故障の早期発見や対処によってダウンタイムを減らす。と同時に、顧客からの出力制御や管理に対する要求に対し、リアルタイムに最適解を発見し、対応できるようになっている。

 さらにモデルによるシミュレーションにより、変化する顧客ニーズへの素早い対応と、効率的でクリーン、かつ信頼性の高い電力供給を実現するという全体最適に結び付けている。全世界ですでに、合計5000台以上の機器からなる900以上の発電所が、デジタルパワープラントとして監視されているという。

大型機械から照明などの小型機器にも波及

 大型機械から始まった製品のサービス化は、IT機器やセンサー、ネットワークの進化によって、その適用範囲を広げている。たとえば蘭Phillipsは2014年の時点で、「Lighting as a Service(LaaS)」と呼ぶ“明るさ”をサービスとして提供するモデルを投入し、公共エリアやオフィスの照明管理に乗り出している。

 LaaSでは、センサーやインターネットによって収集したデータに基づきLED照明をインテリジェントにコントロールする。具体的には、日照時間などに応じたライトのon/offや、LEDの寿命予測に基づく集中交換などだ。こうした改善によって運用コストを抑える。たとえば駐車場であれば、駐車場の運営者は、自らランプを交換しなくても良くなり、かつ省エネを推進できる。

 同様のモデルで、空調機分野でも、機器を売るモデルから“適切な温度環境”を提供するサービスなどが登場している。こうした動きは、センサーの多様化やLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークなど、ネットワーク利用の廉価化や、IT機器の低消費電力化による長寿命化によって、さらに広がっていくだろう。

 サービス化によってメーカーは、その価値を顧客へ直接提供できる。その製品から得られるデータによって、使用頻度や製品の状況が把握でき、改善点や新製品のアイデアを検討でき、さらにはデータ分析により新しいビジネスの可能性も検討できる。メーカーと顧客が直接つながり、両者がWin-Winの関係を構築できれば、差別化や競争力にもつながり、収入面でも安定収入を実現できる(図1)。

図1: サービス化の成功サイクル