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『DXレポート』が指摘する「2025年の崖」を越える攻めのクラウド活用【第17回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年1月21日

Facebookはプログラムを1日2回修正している

 Facebookのビジネスは、SNS(Social Networking Service)を中心としたデジタルサービスであり、その収入の97%を広告から得ている。このモデルの成功には、顧客への新しい経験の継続的な提供が貢献している。それを支えているのが、迅速で柔軟性を持ったフロントエンドを構築するためのソフトウェアの開発手法や適用アプローチであう。

 発表されている論文によれば、Facebookではバグの修正などプログラムの修正が1日に2回実施できる。新しく開発したプログラムは1週間に1度リリースされる。このようなスピードでプログラムを修正したりサービスを追加したりすることで競争力を維持しているのだ。

 プログラムは、独立した小規模な単位に分割され、それぞれが開発・運用に責任を持つエンジニアによってコードレビューされる。変更の規模やコードレビュー時の議論を基に、ツールを使って可能性のある問題を洗い出し、解決した後にリリースする。リリースチームから集められた数千もの変更がパッケージ化され、統合自動テストを経た後でプロダクションになる。

 つまりデジタルビジネスの世界では、アジャイル開発と、開発と運用を一体化したDevOpsが実現されている。変更の迅速化のために、エンジニアがモジュールの開発・運用に責任を持って当たっている。さらに、それに応じたプロセスを実現しており、そのプロセスを自動化ツールや検証ツールが支援している。

 Facebookのようなシステムや仕組みを作り上げることは容易ではない。では変化対応や迅速性を実現するのに、どのような対策が考えられるだろう。1つの解がクラウドの活用だ。コスト削減という“守り”の活用ではなく、ビジネス成長のための“攻め”のクラウド活用である。

米Accentureのクラウド化率は3年で10%から90%に

 クラウドを使うことで、自社のビジネスを柔軟に迅速に変化させることが可能になる。クラウドを使うという選択によって人材や資金を、よりビジネスに投入でき、イノベーションや新ビジネスに対応できる。たとえば米Accentureは、自社のDXにおいてクラウドの活用が基盤になったと発表している。社内変革において、クラウドのインフラやコンピューティングリソースの活用率を3年前の10%から90%にまで高めたとしている。

 クラウドの活用は多岐にわたる。インフラとしてのIaaS(Infrastructure as a Service)だけでなくSaaS(Software as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を使いこなすことが、ビジネスに、より直結した効果を生む。

 SaaSの活用では、自社で開発することなく、環境の準備やシステム構築にも時間をかけずに、アプリケーションの機能が利用できる。初期コストが安く、 障害対策や保守などシステム運用上の負荷もない。かつアプリケーションソフトウェアは、どんどんバージョンアップされていく。販売管理、顧客管理、財務会計、人事労務管理といった基幹系アプリケーションにもSaaSの活用例が増えており、ERPもSaaSの活用が2019年中には半数に達すると予測されている。

 基幹系SaaSを使うときは、自社の仕組みやプロセスをSaaSアプリケーションに合わせるぐらいの気持ちが必要になる。進んだ仕組みをSaaS活用によって構築したり、AIや機械学習などの先端技術をSaaSの形で活用したりすることも可能だ。

 グローバルなSaaS市場では、2018年第2四半期の売り上げは、前年比32%増の200憶ドルに達している。米Microsoft、米Salesforce.com、米Adobe、米Oracle、独SAPがリーダーになっている(Synergy Group調べ)。