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『DXレポート』が指摘する「2025年の崖」を越える攻めのクラウド活用【第17回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年1月21日

進化し続けるPaaSやツールの機能をAPI経由で利用する

 自社でビジネスを差別化するようなシステムやユニークなシステムを構築するためにはソフトウェア開発が必要になる。その場合は、クラウドのPaaSやツール、API(Application Program Interface)の活用を検討することが必須になる。

 特にAPI活用の広がりは、その提供ビジネスが「APIエコノミー」と呼ばれるほど、ネットワークを介して、さまざまな事業者がAPIとして提供する機能を使えるようになってきている。

 たとえば、多くの企業がGoogle Mapsの地図機能を自社のサービスやWebページに組み込んでいる。そこではAPIを使うことで、サービス使用量や使用形態に応じて課金されている。同様に、Uberの配車機能をAPIを使って自社のサービスに組み込めば、今度はUberからバックマージンが支払われる。APIを活用することによって、自社サービスに付加機能を簡単に追加できるのだ。

 クラウドのPaaS機能やツールは進化を続けており、機能の数も増え続けている。AWS(Amazon Web Services)を例にとれば、2018年11月に開いた同社の年次イベント「re:invent 2018」では20以上の新機能が発表されている。
同イベントはテーマに「the right tool for the right job(正しいツールで正しい仕事を)」を掲げており、必要なことに“使える”機能やツールの充実が継続して図られている。

 今回の発表では、データに関しては、アーカイブしてあるデータをビッグデータ解析や機械学習に活用しやすくするデータレイク機能や、ログ保存やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などに適した時系列データベースが登場。セキュリティに関しては、AWS環境のセキュリティ評価や可視化のためのツールが提供された。

 AI関連では、ニューラルネットの学習時間の短縮や、Amazon自身が使っているレコメンドエンジンのサービス提供、RPA(Robotics Process Automation)に使える帳票のレイアウトや、構造を理解して認識する高精度のOCR(光学式文字読み取り装置)機能などを発表。ブロックチェーン分野でも、ブロックチェーンの特性を実現する拡張性の高い参加者共有型の台帳システムと、AWSが管理するブロックチェーンシステムがサービスに加わっている。

 継続した機能追加と機能拡張により、AWSの2018年第3四半期の売上高は、前年同期比46%増の約270憶ドルに達し、クラウド市場でのシェアも51.8%と過半数を越えた(IDC調べ)。

クラウドを活用するだけでは“攻め”に転じない

 クラウドサービスでは、最新で、より効果的な機能やツールを利用できる。それらを使いこなせば、イノベーションやビジネスの進化を加速させられる。しかし、それをビジネスの“攻め”に使っていくためには、第13回で述べた、カルチャーや体制、人材、プロセスも変えていかねばならない。

 変化対応や、テクノロジーの積極活用、迅速性を重視するカルチャーを実現し、それに基づいた戦略を策定し、組織を設計し、テクノロジーの可能性を広く理解したうえでビジネス要件を明確にできる人材の育成や、プロセスの変革があってようやく“攻め”のクラウド活用が可能になる。

 すなわち、会社全体としてのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略としてクラウド活用を進められて初めて、会社の競争力や成長につながっていくのである。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。