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『DXレポート』が指摘する「2025年の崖」を越える攻めのクラウド活用【第17回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年1月21日

経済産業省が『DX(Digital Transformation)レポート - ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開 -』と題した報告書を発表した。デジタルトランスフォーメーション(DX)の向けた障壁の1つが「インフラ」だとし、危機的な現状とITシステム革新の必要性を強くうたっている。今回は、DXを支えるインフラになるシステムについて考えてみたい。

 不確実で変化が大きく、かつ、そのスピードも速まっている中、ビジネス成長のためには、現在の問題や課題への対策とともに、将来発生するであろう課題や問題への対策と、新しい顧客体験(UX:User Experience)の実現などに備える“未来志向”の動きが必要である。

 その実現には、イノベーションの継続的な実現を図れるカルチャーや組織、人材やインフラが必要だと『Uberが証明!?デジタルトランスフォーメーションの本質と4つの障壁』で述べた。

老朽したシステムが、DXがビジネスにつながらない一因

 経済産業省が2018年9月に発表した『DXレポート』では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性と共に、現在のDXの推進がビジネスにつながっていない事実があり、その一因がシステムにあると指摘する(図1)。

図1:『DXレポート』(経済産業省)が指摘する既存システムの現状と課題

 具体的には、老朽化、追加開発による複雑化、古いテクノロジーの利用、システムインテグレーションによる開発期間の長期化・ブラックボックス化によって今後、維持・保守コストの高騰や、システムを維持・保守できる人材の枯渇、セキュリティリスクの高まりが加速するとしている。

 結果として2025年には、基幹系システムを21年以上使っている企業が6割を越え、不足するIT人材は約43万人になり、それと共に広く使われているSAP製ERP(統合基幹システム)の保守終了などが起こる“崖”が待ち受けている。今手を打たなければ、2025年から年間最大12兆円の経済損失の可能性があると試算する。これが「2025年の崖」だ。

 一方で旧来のシステムでは、新しいビジネスモデルを実現するための柔軟性や迅速性がなく、データ活用が難しく、デジタルの重要性が増したビジネスを支えられない。その対応策としてDXレポートでは、『DX推進ガイドライン』の策定や、「見える化」指標、診断スキームの構築、ITシステム構築におけるコスト・リスク低減のための対応策、ユーザー企業とベンダー企業の関係、人材などが提示されている。

システムの考え方やシステム自身の変革が不可欠

 DXレポートにあるように、デジタル化による変化のスピードや広がりは加速している。その変化に対応するためには、システムに対する考え方や、システム自身を変革していかなければならない。

 デジタルビジネスを支えるシステムは、増えるデータやトランザクションに柔軟に対応できるスケーラビリティと、継続的に運用しているシステムの変更や新機能を迅速に追加できる柔軟性が不可欠である。

 これまでのウォーターフォール型で要件を決め、システムインテグレーターにすべてを依頼する開発では、開発までの時間、変更への対応、ブラックボックス化する点で問題になる。長時間をかけた開発では、その間に市場が変化する可能性も高い。

 新しいビジネスモデルを実現して成功している事例では、最初からリッチな機能を提供するのではなく、顧客価値が高く、競争力が高い機能から提供を始め、市場や顧客に学びながら継続的に機能を増やしていく方法が採られている。これを実現するためにも、システムを継続的に進化させていく必要がある。

 実際、デジタルサービスを提供している会社を見てみると、システムを1日に何度も変更できるような仕組みとプラットフォームを実現している。例としてFacebookの仕組みを見てみよう。