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ネットワークの変貌が加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)【第21回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年5月20日

パケット通信の特徴が遅延の原因にも

 ここで、通信の仕組みを改めて見てみたい。LTE以降の携帯電話や固定電話における、すべての伝送は「パケット通信」と呼ばれる方式によって実行されている。パケット通信と、その通信を支えるインターネットは以下のような特徴があり、それが遅延の原因にもなっている。

(1)パケット通信に伴う遅延

 情報の送受は、デジタル化した情報に、送信先と送信元、制御情報などからなる「ヘーダ―」が付け加えた「パケット」と呼ぶ単位で行われる。電話やビデオも、このパケットを介して通信される。伝送に使われるネットワークは、さまざまな通信のパケットによって共有されるため、ネットワークの細い部分の伝送がボトルネックになったり、混雑よって遅延が生じたりする。

 パケットを正しい送信先に送るためには、ネットワークとネットワークの接続部分に、その制御を担う「ルーター」や「スイッチ」と呼ぶ機器が必要になる。これらが送信先を判断し、適切な方向に送り出すが、ここでも遅延が起こる。

(2)インターネットの構造に伴う遅延

 図1に示すように、インターネットは1社や1団体が管理するネットワークではない。キャリアやコンテンツ事業者、クラウド事業者など複数の会社や組織が提供するネットワークが接続されてできあがっている。この構成の中で、どのルートをたどるかによってスピードや遅延時間は影響を受ける。

図1:インターネットは、1つの組織が管理しているのではない。それぞれの組織が管理しているネットワークの集合によって構成されている

 インターネットの帯域の占有も進んでいる。米Sandvineが2018年9月に発表した調査結果によれば、「世界のインターネットの帯域全体の15%を米Netflixが提供するサービスの視聴者によって消費されている」。このような巨大なアプリケーションの動きがインターネットのスピードや安定性に影響を与える。

 そのような中で、安定したネットワークを活用しようとすれば、自社で専用線を持つという方法がある。AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、Google、IBMなどのメガクラウド事業者は、全世界のデータセンターを高速専用線でつなぎ、顧客にサービスを提供している。携帯事業者などのアクセス網とも、専用線や「IX(Internet Exchange)」と呼ばれるサービスを使った接続により高速化を図っているほか、クラウド間のデータ交換や、ユーザーのサービス提供に向けても安定したネットワークを提供している。

 その延長で、新たな形でのネットワークサービスの計画もある。通信事業者ではないコンテンツ事業者やクラウド事業者などがネットワークを提供する動きだ。一部の地域ではこれまでもWi-Fiによるサービスが提供されてきたが、最近では人工衛星を使ったネットワークサービスが計画されている。

 Amazonの「Project Kuiper」が、その1つだ。3つの異なる軌道に合計3236基の低軌道人工衛星を配置し、全人類の居住域の95%をカバーするブロードバンド通信サービスを提供するという。SpaceXやOneWeb、Facebookも同様の計画を打ち出している。Amazonの場合、AWSと組み合わせたサービスとして提供される可能性がある。