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ネットワークの変貌が加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)【第21回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年5月20日

前回『AIスピーカーやコネクテッドカーへと広がるIoT活用、その進化と課題』でも触れたように、ネットワークの進化が製品/サービス、仕事、生活など、さまざまな分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めきた。そして今、5Gの実用化に向けたモバイルキャリアへの5G免許の交付や米Amazon.comによる人工衛星を使うネットワークサービスの発表など、ネットワークの変革が大きく動き出した。今回は、最新のネットワーク動向と、それによって可能になる活用策および、それらのリスクや課題を考えてみたい。

 変革のキーになるテクノロジーであるクラウドや、ビッグデータ、AI(人工知能)のすべてが、ネットワーク基盤をベースにしている。それだけに、ネットワークの動向や意味を把握することは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進において非常に重要だ。ネットワークの高速化、低遅延化、アクセス範囲の拡大は、製品やサービスの変革、新しいビジネスの創造につながる。ただし、活用に向けてはリスクや課題も把握しておかねばらない。

ネットワークの進化が仕事の仕方やプロセスを変えた

 ネットワークの進化は、迅速で利便性の高い情報活用を可能にし、仕事の仕方やプロセスを大きく変えた。なかでも常時接続環境は、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)アプリケーション等などによる情報共有やコミュニケーションを変え、ネットワークゲームやビデオのリアルタイム視聴やダウンロードなどによって個人の時間の使い方を変えてきた。

 コンピュータ資源をネットワーク経由で活用することでクラウドは誕生した。もともとは自社の施設内に設置したコンピュータを自社のネットワークを使ってPCや端末から利用する“オンプレミス”の形態から、クラウド事業者が遠隔地で運用するコンピュータをネットワーク越しに必要に応じて使う形態へという変革である。

 クラウドは、利便性、コスト低減、変化のスピードアップなどの効果をもたらした。クラウドとネットワークの活用によって新しいビジネスが生み出し続けられ、既存のビジネスも変革を促されている。米Googleが最近発表したゲーム分野への進出も、その一例だ。

 Googleが提供するゲーム「Google Stadia」は、クラウド上のサーバーでゲームアプリケーションを動かし、その結果である画面をストリーミング方式でユーザーに配信し、キー操作に対応する。ユーザーは、高い演算処理能力を持つゲーム専用機やPCなしに、ブラウザやアプリで楽しめる。既存のゲーム専用機を中心とした成功モデルへの挑戦として、ゲーム専用機メーカーの株価に影響を与えている。

カウントダウン始まる5G、高速化だけでも大きな変化に

 2020年を前に、ネットワーク分野での最も大きな動きが5Gであり、商用に向けたカウントダウンが始まった。NTTドコモと、KDDI、ソフトバンク、楽天の4モバイルキャリアへ5G免許が交付され周波数が割り当てられた。2020年上半期に商用化が始まる予定である。

 割り当て条件は、「5年後までに全国の10平方キロメートルメッシュの5Gカバー率を50%にすること」「その5G基地局は10ギガビット/秒以上の高速回線を持つこと」とされている。高速接続が可能な5G網が広がっていくことになる。

 5G本来の機能としては、第10回『5Gがもたらすデジタルトランスフォーメーションの可能性』で述べたように、「高速性」「低遅延」「多端末接続」などがある。ただ現状では、標準化を進めている3GPPの決定が遅れていることもあり、完全な5Gネットワークの完成は2022年ごろとみられている。当初は、4G LTEの制御システムを使った高速ネットワークとしてサービスが始まる。

 とはいえ高速化だけでも可能性は大きく広がる。より大量のデータを迅速に送れれば、たとえばビデオは4Kや8Kなど、より高精細になり、また複数のビデオが見られるマルチスクリーンビデオ配信が可能になる。コネクティッドカーや、機械の遠隔制御、遠隔医療といった新分野の創出や既存分野の強化につながる。

 5Gの応用として、AR(Augmented Reality:拡張現実)/VR(Virtual Reality:仮想現実)の処理をクラウド側で実行することで、それと接続するスマートグラスなどのUI(User Interface)部分を低機能でシンプルにすることが考えられている。このように、ネットワークの高速化は、活用分野をさらに広げていく。

 ただ高速性を考える際に考慮しなければならないのが、使用者と処理サーバー間のネットワーク構成である。5Gによってモバイル区間が高速化しても、クラウドに置かれるサーバーまでのネットワークに遅い部分があっては、そこがボトルネックになったり、大量の伝送によっても遅延が発生したりしてスピードは低下するからだ。