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上場したUberに見るプラットフォームビジネスの裏側【第22回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年6月17日

Uberの成長性と顧客価値を支えるインフラ

 Uberのようなビジネス展開を支援するためには、迅速性、信頼性、スケーラビリティと共に、変化に対応できるインフラの構築が重要である。そのためには、「『DXレポート』が指摘する「2025年の崖」を越える攻めのクラウド活用【第17回】」に書いたように、クラウドの活用、クラウドのAPIやサービスの活用が解になる。

 UberはAWS(Amazon Web Services)を中心としたクラウドをインフラプラットフォームに、「Google Map」による地図機能のほか、コミュニケーションや決済など機能ごとにAPIとして提供されている部品を組み合わせることによって開発の時間とコストを削減し、迅速なビジネス化を図っている。このインフラによって、需要の急増に応じた素早く効率的なサービスの拡大と、運用時の手間の低減を実現した。

 先進技術の活用にも積極的である。AI(人工知能)技術は、ドライバーと利用者のマッチング、経路選択、乗車履歴の分析だけでなく、車両の正確な位置把握やセンサー処理による事故検知にも使われている。

 マッチングでは、現在および過去の動向を使って需要を予測し、ドライバーに需要が高いゾーンを教える。その解析結果から、ドライバーの共有状況と需要に応じて、ゾーンごとに価格を設定することも可能になっている。

Uberのデータ活用

 ビッグデータ解析や、AI活用にはデータの収集と活用が必須である。効果的な分析により、より良いサービスを生んだり信用を保証したりすることがプラットフォームの価値をさらに向上させる。Uberは、100憶件を越える乗車履歴データを、AIと機械学習によって分析し、マーケットプレイスにおける意思決定の自動化や新サービスの開発に役立てているという。

 利用者についても500項目以上のデータを収集している。その中には、スマホのIPアドレスやデバイス情報、支払情報、位置情報、E-mailアドレスや電話番号などの個人情報と、その変更履歴、キャンセル情報、位置情報に基づく良く使う道順の情報、過去の支払記録、総額、支払方法などが含まれている。利用者情報自体が不正に作られたり利用されたりしたことも把握している。

 これらのデータ蓄積と活用によって、サービスの利便性、利用者に対する信用やロイヤリティを知るのに使え、新サービスへもつながる。

Uberの収益性

 収益性に関しては懸念が出ている。2018年の業績は、売上高が112憶7000万ドルに対し、総支出が143億ドルで、30憶3000万ドルの営業利益の赤字になっている。

 ネットのアプリケーションやサービスは、商品や材料・部品の仕入れなどの変動費がかからないため、利用者が増えたり使用頻度が増えたりすれば、それが利益に直結し利益率は上がっていく。ところがUberのライドシェアは、前年度から赤字額は減っているが、創業以来10年間、赤字が続いている。

 その原因のうち大きいものが、ドライバーの確保に関するコストだ。ライドシェアでは、利用者だけでなく、利用する車のドライバーを確保しなければならない。Uberは、求人広告のほか、契約ボーナスなど多くの運転手獲得コストをかけている。それにも関わらず1年後の継続率はわずか4%という数字が発表されている(2017年度)。獲得費用以外にも、優良なドライバーに支払うインセンティブ、ドライバーの損害保険の補填費用が必要である。

 ライドシェアビジネスモデルの先駆者として、ドライバーからの待遇改善や契約を巡る訴訟、世界各地での政府や業界との交渉にも費用が掛かっている。競合も、米Liftのほか世界中で誕生・事業拡大を図っており、市場シェア拡大のために、利用者には大幅の運賃割引が、ドライバーには大幅なインセンティブが必要になっている。これらコスト増による収益性の問題が、株価にも影響を与えている。

 ドライバーの問題は、自動運転車が実用になれば大幅に改善でき、サービスも大きく変わっていく。Uberは自動運転に向けて、トラックの自動運転技術を持つ米Ottoの買収や、自動運転車の路上試験などに投資を続けている。ただトラックの自動運転については米グーグルとの知財を巡る訴訟から自社開発を断念したほか、自動運転の実用化までは、まだ時間がかかる。ドライバー問題の今後が、Uberの業績に大きな影響を与える。

顧客価値や市場の変化の先取りも不可欠

 Uberが体現しているように、プラットフォームビジネスで成功するためには、顧客価値を明確にしたビジネスモデルと、そのビジネスモデルを支えるプラットフォームとデータ活用戦略、ビジネスモデルの収益モデルと収益性、さらに成長戦略を考える必要がある。これらを基に、顧客価値や市場の変化を先取りできる企業だけがプラットフォームビジネスで成功を収める。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。