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リクナビ問題が浮き彫りにしたデータエコノミーの課題【第25回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年9月17日

前回の『急進するモバイル決済のビジネスモデルと課題』でモバイル決済の成功には、データビジネスとしての発展が必要だと述べた。だが、「リクナビ」の「内定辞退率」問題は、データビジネスにおける、さまざまな困難な点を浮かび上がらせた。今回は国内外のデータビジネスの例を基に、データビジネスとして必要なことを考えてみたい。

 世界の動向を見るとデータビジネスは急速に広がりつつあり、サービス提供者と利用者が“Win-Win”な関係を構築することで成功している事例も多い。

 そうしたなか、日本のデータビジネスで事件が起きた。1つは、リクルートキャリアが運営する「リクナビ」が提供した学生の「内定辞退率」の有料サービスだ。個人情報保護法違反としてサービスは廃止になり、政府の個人情報保護委員会の指導対象になったほか、職業安定法違反として行政指導も受けた。

「内定辞退率」を1社1年当たり400万〜500万円で提供

 リクナビは、年に80万人の学生と3万を越える企業が使用している就活のプラットフォームである。リクナビによって提供される「リクナビDMPフォロー」という内定辞退率提供のサービスは、2018年3月から始まっている。

 同サービスを利用する会社が、自社の持つ前年度の辞退者名簿と今年の選考者リストを渡すと、リクナビが、選考者が、どの企業をいつ閲覧していたか、内定後も他の企業を閲覧していたかなどのデータを基にAI(人工知能)によって学生の内定辞退率を5段階で予測するという。

 利用会社は、この内定辞退率によって引き留めの戦略を立てられる。サービスは38社に対し、1社1年当たり400万〜500万円で提供されていたようだ。

 問題は、本人の認識しないところで、本人にとって重要な情報が提供されていたことである。さらに学生の7983人に対しては、個人情報の他社提供に関して同意なく使用しており、明らかに個人情報保護法違反である。

 一方、同意の内容も、学生がサイト登録の同意に関して「個人情報を利用」「採用活動補助のための利用企業への情報提供」という表現だけで、内定辞退率に関しては、提供されていたこと以前に算出されていたことさえ伝えられていなかった。

 個人情報の利用は、目的をできる限り特定するよう義務付けられており、範囲を越えた利用も禁じられている。使われていることを知らされていなければ、個人情報保護法にうたわれている本人による利用停止権も意味がない。

 このように個人情報保護法を始めとしたルールに違反したり、データを提供する利用者のデメリットにつながるようなデータ活用を行ったりすれば、そのサービスだけでなく、その会社や、その会社の提供する他のサービスまでも悪影響を受ける。情報提供を受ける側も、ルールの遵守や内容自身が適切であることを確認する必要がある。

利用者が確認できないと批判を受けたYahoo!の信用スコア

 一方、利用が広がりつつある信用スコアサービスの分野では、Yahoo!が自社の持つデータを基に信用スコアを他企業に提供するサービスを開始し、批判を浴びた。

 信用スコアについては、さまざまな企業が発表している。そのなかでYahoo!は2019年6月に、独自の信用スコアを算出し外部企業に提供すると発表した。その方法は、信用行動、消費行動、Yahoo! Japanのサービス利用、それぞれのカテゴリーごとにスコアを算出し、それをまとめて総合スコアを算出するという。

信用行動 :ヤフオクでの評価、ヤフーショッピングでのレビュー回数、支払サービス使用の有無、知恵袋での活用度を反映
消費行動 :EC(電子商取引)や、ワレットサービス、カードなどでの購入品と金額を反映
サービス利用 :サービスの利用頻度をデータとして使用

 これらから算出するスコアは、連携サービスや外部企業に提供され、それによって利用者は、レストランでの先行予約などの特典が得られるようになる。

 本サービスでは、データの外部提供にあたって本人の同意は得るが、信用スコアを自分自身では見られず、また、データとなる行動が、どのようにスコアにつながっていくのかも明らかではない。また、Yahoo!のサービスの一部しか使っていない利用者にとっては、高いスコアを獲得することは難しいと思われる。

 信用スコアを成功させるには、利用者が納得できるスコアにすることだが、そのためには、本人がそのスコアを確認できることも必要である。