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デバイスのIoTが新たなビジネスチャンスを生み出す【第27回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年11月18日

前回の『パブリック5G普及の前にローカル5Gが立ち上がる』)では、5Gがスマートフォンの世界だけでなく、社会インフラを大きく変えていく可能性があることを述べた。社会インフラとしての5Gネットワークが広がることによって、さまざまなモノがコネクティッドになる。今回はIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の現状とテクノロジーの動きから今後の動向を考えてみたい。

 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスは急増している。2018年に300憶台を突破し、2020年には400憶台を越えると予測されている(米IHS Technology調べ)。IoTを支えるインフラも、LANやWi-Fiだけでなく、LPWA(Low Power Wide Area)も使われるようになってきている。

 LPWAは低消費電力で安価に遠距離通信を実現できるネットワークだ。携帯電話網の基地局を利用して全国エリアをカバーする「セルラーLPWA」や、900MHz帯の無線を使うことでライセンスが不要な「LoRaWAN」や「Sigfox」がある。LPWAによって2020年までに全世界で50億台のデバイスがIoT接続されると予測されている。

 新たな動きとして、米Amazon.comが2019年9月、「Sidewalk」と呼ぶ通信サービスを発表した。詳細は不明だが、900Mhzの電波を使う新しい通信方式で、低速ながら500メートル、見通しが良ければ1マイル(約1.8キロメートル)の通信が可能で、ロサンゼルス都市部なら700個のアクセスポイントでカバーできるという。消費電力もデバイスによっては年単位のバッテリー寿命になるという。

 低消費電力で安価に使えるネットワークが広がることによってIoTデバイス数は加速的に増加する。Amazonは、Sidewalkを使ったサービスの第1弾として「Ring Fetch」と呼ぶペット犬のトラッカー(追跡サービス)の発売を予定している。5Gによって基地局当たりの接続デバイス数が増え、安価なサービスが提供されるようになれば、さらにさまざまなデバイスがIoT化することになる。

デバイスのIoT化によって新市場が生まれる

 デバイスのIoT化によって生まれる新市場のなかで、成長性が高い分野は(1)産業用途、(2)自動車、(3)医療、(4)コンシューマだ(米HIS Technology調べ)。それぞれの分野の事例を見ていこう。

産業用途

 製造機器やロボットをIoT化し、データを収集し、状況をリアルタイムで把握するようになれば、製造工程のモニタリングや管理、製造の改善に関するデータを収集できる。製造工程に存在する、さまざまな機器がIoT化される。

 たとえば独ボッシュでは、電動ドライバーをIoT化し、ねじを締めるトルクや回転数、順番などをプロファイルとしてダウンロードすることで、オペレーションの精度や品質を高めるとともに、収集したデータをフィードバック材料に工程の管理や改善を行っている。さまざまな機器のIoT化とインテリジェント化によって、モニタリングとデータ分析といったデータ収集にとどまらず、デバイス制御にまで活用法は広がっている。

 ローカル5Gにより、さらなる高信頼性と低遅延が実現されれば、状況把握を基にしたダイナミックなインテリジェンス制御や、自動化・自律化、ロボットや機器の協調動作などに応用が広がっていく。

 実際ドイツでは、機器やAGV(Automated Guided Vehicle:自動走行車)やロボット、ドローンをミッションクリティカルな状況で使用するために、稼働状況を把握しインテリジェントに制御する実証実験が行われている。その中には、人とロボットが協調して作業できるように、人の動きをセンサーでとらえて安全を確保するといった例もある。

 産業用途では、自動化や効率化、バラツキ防止のチェック、画像による品質チェックなどによる生産量の増加、品質改善、コスト削減、迅速化を実現することがビジネスへの貢献につながる。

自動車(コネクテッドカー)

 IoT化した自動車、すなわちコネクティッドカーでは、安全運転や自動運転の実現、車での移動中のネットワークサービスの提供が考えられている。その実現には、自動車自身がRIDAR(レーザーによる画像検出と測距)やカメラを搭載するだけでなく、「V2X(Vehicle to Everything)」と呼ばれる自動車とさまざまな門を接続するための仕組みが必要になる(表1)。

表1:V2X(Vehicle to Everything)の「X」にはさまざまな対象が入る
名称車とつながる対象など
V2N(Vehicle to cellar Network)セルラーネットワーク(携帯電話網)との接続
V2V(Vehicle to Vehicle)他の車とのコミュニケーション。先行車の速度情報や緊急自動車の接近情報などをやり取りする
V2I(Vehicle to roadside Infrastructure)信号機や見通しの悪い交差点のセンサー、人などの接近を検知するセンサーとのコミュニケーション
V2P(Vehicle to Pedestrian)歩行者とのコミュニケーション。接近を知らせるなど

 V2Xに関するさまざまな実証実験が始まっている。車と携帯電話網をつなぐ「V2N(Vehicle to cellular-Network)」は既に商用化されている。車同士を「V2V(Vehicle to Vehicle)」では、ソフトバンクが、4.5Ghz帯の5Gを使って3台のトラックの車両間通信を使い、位置情報や速度情報を共有した協調型距離維持制御によって、隊列走行した実験結果が発表されている。

 車と道路設備などをつなぐ「V2I(Vehicle to roadside infrastructure)」もある。内閣府主導の実証実験が計画されており、信号機の切り替わりや高速道路の合流地点で車の速度や車間などの情報を自動運転車に役立てる。中国では、大手バスメーカー宇通集団が「5Gスマート路線バスプロジェクト」と呼ぶレベル4の自動運転プロジェクトを立ち上げ、V2Iによる信号の認識や遠隔監視に取り組んでいる。

医療分野

 医療機器のIoT化により、データ収集から、経験やノウハウの蓄積、それらをAIで解析し診断を支援する動きが進んでいる。ヘルスケア分野ではウェアラブルデバイスによって、活動量や消費カロリー、心拍数や血圧、運動や睡眠に関するデータなどを収集し、そこから健康維持や病気の早期発見に活用する動きが出てきている。

 センサーに他分野の技術が活用される事例も現れている。京都で西陣織を生産するミツフジは、その織りの技術を使って、導電性に優れた銀メッキ繊維をシャツの内側に電極として織り込み、バイタルデータのより正確な取得を可能にした。 取得したデータは、ウェアへの着脱が可能なトランスミッターを経由し、米IBMのIoTプラットフォームに収集され、分析される。

 このようにIoTでは、IT以外の分野の技術とITの組み合わせによって、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性がある。

コンシューマ分野

 スマートホーム分野の成長が目覚ましい。米国での売上高は2018年に前年比33%増の240憶ドルに達している。中国では70憶ドルだが前年比増加率は69%に上る。この市場には、スマート家電、セキュリティ、機器の接続や制御、ホームエンタテインメント、エネルギー管理、照明や温度の管理などが含まれる。

 中でも浸透率が高まっているのがスマートスピーカだ。2018年第四半期には前年比95%増の3850万台が出荷された。Amazon Alexaがシェア35.5%、Google Homeは同29.9%と、両製品がリードする(米Strategy Analytics調べ)。

 スマートスピーカーと接続できる機器も、照明器具や鍵、TV、電子レンジ、ロボットクリーナー、各種センサーなど、さまざまに広がっている。2019年9月にはAmazonが、スマートグラスの「Echo Frames」と指輪型スマートスピーカー「Echo Loop」を発表している。今後も新しいエクスぺリエンス(体験)を提供する製品が出てくるであろう。