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グローバルで激化するFintechのサービス競争【第30回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年3月23日

東南アジアがFintechのホットスポットに

 まずは2019年版のLeading50に選ばれた上位5社の事業内容を見てみよう(図2)。

図2:2019年版の「Leading50」に選ばれたトップ5社(米KPMG『2019 Fintech 100』より)

1位:中国Ant Financial

 Alibabaグループのファイナンシャルサービス会社である。「Alipay」を提供する世界最大の決済サービス提供会社だ。決済以外にも銀行業務、保険サービス、資産運用サービス、信用情報サービスをスーパーアプリとして提供している。

2位:シンガポールGrab

 マレーシア生まれの配車サービス提供会社である。三菱UFJ銀行が資本提携を発表した。現在は、配車サービスを軸に獲得した東南アジア最大の顧客基盤をもとに、データとテクノロジーを活用した決済サービスをはじめとした金融事業に取り組んでいる。1億7000万人のユーザーを抱える。

3位:中国JD Digits

 リスクマネジメントや、銀行や企業のオペレーションを支援する幅広いサービスを提供している。AIやビッグデータ、クラウド、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、ブロックチェーンなどのテクノロジーと業界に関する知識を強みにしている。

4位:インドネシアGoJek

 バイクのライドシェアサービスからスタートした。現在は「Gopay」「Gobills」「Gopoints」「Paylater」「Gopulsa」など20を超えるファイナンシャルサービスを提供するプラットフォームを運営している。東南アジアに数百万人のユーザーを持つ。

5位:インドPaytm

 インド最大のデジタル決済サービス提供会社。3億8000万人のユーザーと1200万の業者が参加している。

 このようにLeading100のトップ5は、すべてアジア企業である。Ant FinancialのようなFintech企業だけでなく、GrabやGojekなど配車サービスで成功した企業が、その成功による顧客基盤を活用しFintech分野へと手を広げ、スーパーアプリ化やプラットフォーム化を実現して急成長した。

 スーパーアプリ化によって、それぞれのサービスの利便性と、統合による利便性が生まれ、使用場面や使用場所がさらに増すことで寡占が進む。クレジットカードや電子マネーの利用が遅れていたためにデジタル決済がスムースに受け入れられたことも急成長の要因になっている。資金調達の面からも東南アジアがホットスポットになっている。

「チャレンジャーバンク」という新分野も登場

 2019年のFintech100に選ばれた100社を分野別にみると、決済ビジネス関連が27社で最も多い。資産運用・資産保全関連が19社、保険関連が17社、融資関連が15社である。複数分野をカバーする会社も13社ある。

 複数分野をカバーする会社の多くは、スーパーアプリやプラットフォームを提供している会社だ。これら以外にも、幅広い銀行業務を提供する「チャレンジャーバンク」という分野も登場している。

 チャレンジャーバンクのモデルは、銀行業務ライセンスを取得し、当座預金や普通預金、住宅ローンなど、既存銀行と同じサービスのすべてをモバイルアプリ上で提供するもので、既存銀行から完全に独立した事業を展開している。特定の業界や地域を対象とした「垂直型チャレンジャーバンク」と呼ばれる展開も広がりつつあり、規制緩和の流れが追い風になっている。