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グローバルで激化するFintechのサービス競争【第30回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年3月23日

国別ではトップの米国に続きイギリスが健闘

 Fintech100を国別に見てみると、米国が15社、イギリスが11社、中国が10社、インドが8社、オーストラリアが7社である。日本からはLeading50に2社、Emerging50に2社が入っている(図3)。

図3:米KPMGの『2019 Fintech 100』に選ばれた日本のFintech企業4社

 トップの米国に続きイギリスが健闘している。イギリスは、政府主導で規制緩和を進めるなどFintechに力を入れている。

 具体的には、ロンドンの金融の中心シティの東に「Level39」というエリアを提供し、Fintechスタートアップのためのエコシステムを作り出している。そこには金融大手も進出することで、資金と人材、情報が集まり、スタートアップの設立から成功までを後押しする仕組みができている。

 新しいテクノロジーの活用も盛んだ。Emerging50には、AIやビッグデータ活用、新しいビジネスモデルによって、銀行業務や資産運用、市場動向情報を提供する企業が選ばれている。テクノロジーにより従来の経験や勘といった人に依存する部分をなくし、データの蓄積によってAIやビッグデータ活用の精度を高める動きが起こっている。

GAFAと既存の大手銀行が戦略的提携に動く

 地域別トップの米国ではFintechによるチャンスを狙って、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)のようなプラットフォーム企業と、シティグループやJPモルガン・スタンレーのような既存の銀行の両者が戦略的な動きを見せている。

 Googleは「キャッシュ」と呼ぶサービスで銀行業務に参入する。そのためにシティグループとスタンフォード大学のクレジットユニオンと組む。銀行が貯金の管理と貸し出し審査、規制対応業務を担当し、Googleはプラットフォームを提供する。Googleにすれば「Google Pay」を買い物から金融まで、生活に密着したサービスへ広められ、それに伴うデータの蓄積とデータ活用ビジネスの展開が図れる。

 Appleも「Applepay」の活用を広げている。2020年第1四半期の決済額が127億ドルに達するなど、同社のサービス事業の売り上げに貢献している。取引件数も2019年第3四半期は毎月10億件に上り、使用できる店舗も増えている。ゴールドマン・サックスと提携し、「Apple Card」と呼ぶクレジットカードを発行しての銀行業務への進出も始めている。

 Facebookは仮想通貨リブラによって、通貨自体のデジタル化とそれに伴うビジネスへの参入を目指している。

 Amazon.comは、自社エコシステムの拡張・強化でのファイナンシャル分野にアプローチする。「顧客に、より低価格で商品を提供する」というビジネスモデルは、これまでと共通だ。すなわち、商品をセレクトし顧客に購買などのエクスペリエンス(体験)を提供すると同時に、販売や物流、ビジネス支援などのプロセスの効率化や新プロセスの導入によって低コスト化を図る。

 このモデルの中で、決済や金融に焦点を当てた展開を強化する。Googleのような銀行業務への進出も検討している。Amazonの協業相手はJPモルガン・チェースだ。JPモルガン・チェースは、銀行業務をサービスとして提供するBaaS(Bank as a Service)の展開を目指している。

データ活用に向けた顧客の信用獲得が重要に

 これらの動きからは、スーパーアプリ化とプラットフォーム化が、成長のための重要な選択肢になっていることが分かる。自社でプラットフォームを構築するのか、協業によってプラットフォームを構築するのか、その戦略を明確にする必要がある。

 プラットフォーム化のビジネスモデルで重要なのがデータ活用だ。データの分析によって個人の行動や趣味などの傾向、それらに基づく信用度を活用し、高い顧客満足度につながる価値を提供することが重要である。さらに、顧客の信用を得るためには、データ活用に関して政府の規制を満たさなければならない。セキュリティ対策や個人情報の活用に関しても、顧客の信用を得る必要がある。

 デジタル化によって場所や人が差別化要因にならず、規制緩和が進むことによって競合はグローバルになる。デジタル化された業務では、顧客が増えてもコストの増加は比例しないため、利益率は高まる。その利益を投資に回し、より価値ある機能を提供できれば競争力は高まり、成長を続けられる。そのためには顧客の獲得と継続的な革新が前提になる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。