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テスラに見る“デジタルネイティブ製品”がもたらす市場価値【第35回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年8月17日

前回『個別最適から全体最適を目指すデータドリブンな製造改革』と題して、製造業におけるデータドリブンな変革を取り上げた。なかでも特に自動車業界は、「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」と呼ばれる変革の中、業界全体、そして製品自体が大きな転換期を迎えている。今回は、その自動車業界の“台風の目”になっている米テスラの取り組みから、“デジタルネイティブ”について考えてみたい。

 「100年に1度の変革」が訪れていると言われる自動車業界。そこに迫っているのが「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」だ。Connected(ネット接続)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(化石燃料から電気へ)というデジタルテクノロジーと、それを活用したMaaS(Mobility as a Service)などの新しいサービスの登場と広がりが、業界を揺さぶっている。

時価総額でトヨタを抜いたTeslaへの期待はEVのリーダー

 そうしたなか、米Tesla社が株価時価総額でトヨタ自動車を抜いて世界一になったことは、その象徴である。2020年7月1日時点で、米国市場におけるTeslaの時価総額は2105億ドル(約22兆9400億円。1ドル109円換算、以下同)。一方、日本市場でのトヨタの時価総額は21兆7185億円である。

 Teslaは、イーロン・マスク氏によって2003年に創業され、加速性能や航続距離に優れたスポーツカー仕様のEV(電気自動車)である「ロードスター」によってブランドイメージを作りあげた。

 その後、自動車とバッテリーの進化を続け車種を増やしている。2016年に発表した小型の低価格セダン「モデル3」は、2019年度の出荷台数が36万台(EVSale.comより)になり、EVで初めて30万台を越えた自動車になった。

 トヨタの2019年の世界での販売台数は1074万台。Teslaは36万7500台だから、まだまだ大きな差があるが、2023年に700万台と予想されているEVという成長分野にあって、販売台数やテクノロジーで先端を走るTeslaへの期待が株価に表れた。2020年7月22日に発表された決算でも、純利益1億400万ドル(約113億3600万円)と4四半期連続の黒字を達成し、Teslaの株価は上昇している。

 Teslaの強みは、その製品にある。自動車の基本性能である航続距離や操作性、加速性能、デザインなどで先行するだけでなく、CASE時代の“EVのリーダー”として、テクノロジーとビジネスのイノベーションを続けている。

 特にデジタルテクノロジーの活用においては「デジタルネイティブ」とも呼ぶべき製品になっている。単にテクノロジーによる価値を付加するのではなく、自動車におけるITアーキテクチャーを変え、デジタル時代のビジネスモデルや、サービスやUX(User Experience:顧客体験)を生み出しているからだ。

デジタルネイティブな製品が持つ3つの特徴

 デジタルネイティブな製品とは、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代をリードする機能やサービスを持つ製品のこと。図1に挙げる特徴を持っている。

図1:デジタルネイティブな製品が持つべき特徴

コネクティッド(Connected)

・製品にネットワークによる接続機能が完備され、そのネットワーク経由で、ソフトウェアやコンテンツ、データのやり取りができる
・ネットワーク経由で、どこでもソフトウェアの保守やアップグレードができ、情報や、音楽・ビデオなどのコンテンツを提供できる
・製品や使用者、周囲の状況などのデータが収集でき、その解析結果をフィードバックしたり機能強化に使ったりができる

ソフトウェアデファインド(Software Defined)

・ソフトウェアによって、製品の機能が実現されており、製品の価値の中核になっている
・ソフトウェアの変更だけで、機能変更や追加、性能向上が可能である
・ソフトウェアによって新しいUXやサービスを提供している

プラットフォーム化(Platform)

・マーケットプレイスによるアプリケーションやソフトウェアの販売、製品のサービスモデル化、サブスクリプションモデルなど、新しいビジネスモデルを実現するためのプラットフォームになる
・アプリケーションやコンテンツなどのプラットフォーム機能を提供する

 これらの特徴を機能として実装できれば、迅速な市場変化や顧客要求に対応でき、顧客とメーカーの双方にメリットを提供できる。顧客には、ソフトウェアアップデートの形で、保守やアップグレード、さらには新機能・新サービスを、どこでもネットワーク経由で提供できる。

 メーカーとしても、ソフトウェアによって製品保守のプロセスを変革でき、市場の変化にも迅速に対応できる。さらに、アップデータの提供や、製品や顧客の使用状況といったデータを収集することで、顧客との継続的な関係が構築できる。有料のソフトウェアやコンテンツ、新サービスの提供という事業機会も得られる。