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テレワーク拡大で「オフィス不要」は本当か【第36回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年9月23日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として3密を防ぐテレワークの活用が広がっている。テレワークの本格活用によってオフィス戦略を見直す企業が増えており、極端な意見として「オフィス不要論」も出てきている。改めてオフィスの役割と、そのあり方を考えてみたい。

 第32回『そのテレワークはデジタルトランフォーメーション(DX)につながっているか』で述べたように、テレワークには生産性向上や働き方の多様化などのメリットがある。

 『社長100人アンケート』(日本経済新聞)では、90.9%の会社が「ニューノーマルでもテレワークを継続する」と答えている。テレワーク活用の障壁に対しても、デジタル化の加速と、脱・時間管理、ジョブ型雇用の導入、在宅専用人材の採用などの人事制度の見直しによって解決しようとしている。

 こうしたテレワークの本格活用に併せて、オフィス戦略を見直す企業が増えている。たとえば富士通は2022年度末までに、テレワーク勤務を基本とし、オフィス規模を現状の半分に縮小し全席をフリーアドレス化すると発表した。オフィス縮小に留まらず「オフィス不要論」も出てきている。

テレワークでは孤独感の解消とモチベーションの維持が課題に

 まずテレワークの効果と課題を考えるために、米スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授が、在宅勤務を検討するために、中国の大手オンライン旅行代理店で実施した実験内容を見てみたい。米ハーバート・ビジネス・レビュー誌に紹介されている。

 この実験では、コールセンターの従業員を在宅組とオフィス組に分け、それぞれのパフォーマンスを測定している。結果、9カ月で在宅組は13%のパフォーマンス向上が見られたという。

 パフォーマンス向上の要因は、単位時間当たりの生産性の向上と、休憩回数や病欠日数の減少である。さらに在宅組は、満足度が高まり消耗度も少なく、離職率は約50%減少した。

 この実験例にあるコールセンター業務のように、1人が行う業務の内容や目的が明確な場合は、在宅でも集中力を持って仕事ができるため、従業員の生産性向上が期待できる。成績の高い従業員は、実験後も在宅勤務を希望することが多かったと報告されている。

 ところが在宅組の半数はオフィス勤務に戻ることを希望し、当初は在宅を希望したオフィス組も4分の3がオフィス勤務を希望したとされている。理由は、在宅で勤務することの孤独感だ。

 この例からは、テレワークを推進するうえでは、孤独感の原因を解決し、従業員の高いモチベーションを維持することが課題として挙げられる。チームワークを必要とする業務の実行や、組織やチームとしてのパフォーマンス向上に関する課題も想定される。

休憩時の幸せ度合いが成果を高める

 チームのパフォーマンスに関しては、日立製作所のフェローである矢野 和男 氏の「幸せと感じること(ハピネス)」研究を見てみたい。同氏は2020年7月に設立された新会社「ハピネスプラネット」のCEO(最高経営責任者)にも就いている。

 矢野氏は、ハピネスが人の活動に大きな影響があるという仮説のもと、ハピネスの測定とその応用を研究し、ハピネスの度合いと身体活動の総量の間に強い相関があることを発見した。身体活動量は加速度センサーで測定できるため、ハピネスを数値化できることになる。

 この方法を使って、製品/サービスを売り込むインバウンドのコールセンターで実施した実験では、売上成果や1件当たりの処理時間と大きな相関を示すものとして、休憩時のハピネス度合いが見つかった。休憩所での会話が活発な(ハピネス度合いが高い)日は受注率が高く、活発でない日は受注率が低かった。

 このように、人が同じ場所に集まり雑談することが、活性度や仕事の成果向上に関連する。他の職場における実験でも、この活性度と生産性向上の関係が見られている。活性度は周りの人に伝搬し自律的に広がっていく。

 複数の人が集まって会話、雑談、議論をすることよって、人と人とが互いに影響し合う集団的な身体の動きが生まれる。そのことで活発度が高まり、一体感やチームの生産性などの効果が期待できる。

 これに対しWeb会議の限定された画像と会話だけでは、細かい表情や身体の動きなどの反応を見ることが難しいだけでなく、話の割り込みや会話を始めるタイミングが難しいなどの問題を抱えている。一体感や活性度の共有では、オフィスでの打ち合わせに比べて劣る。初めて会う人とか、最初の訪問などに使うことには抵抗がある。