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スマートシティが実現する住民への価値【第44回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年5月17日

東京のスマートシティとしての評価は2020年に世界79位

 スマートシティが解決すべき社会問題には、どのようなものが考えられているのだろうか。政府の『スマートシティガイドブック』では、人口の都市集中、インフラ老朽化、地方公務員の減少、災害の頻発化、環境保護・脱炭素を大きな課題として挙げている。

 これらの社会問題に対し、「医療・健康」「交通・モビリティ」「エネルギー・環境」「産業や就業機会」「行政のデジタル化」「教育」「生活」などの分野で大きな価値を生み出すことが目標になる。

 スイス国際経営開発研究所(IMD)とシンガポール工科デザイン大学(SUTD)は、住民調査に基づく『Smart City Index』をまとめている。そこではスマートシティの分野を「ヘルスケア&セイフティ」「交通・モビリティ」「アクティビティ」「機会」「政府サービス」の5つに分けている(図1)。

図1:『Smart City Index 2020』にみるスマートシティの要件

 『Smart City Index』は、都市のスマートシティの進展度を、各分野に対する現状レベルと、それぞれに関するテクノロジーの活用レベルによって評価する。テクノロジー活用だけでなく、その結果としてのレベルの向上も評価ポイントになっている。

 2020年の評価では、シンガポール、ヘルシンキ、チューリッヒが上位3都市になっている。東京は79位で、2019年の62位から後退した。東京の評価としては、ヘルスケア&セイフティを除き、現状レベルで高い評価は得られておらず、テクノロジー活用に関しては低い評価になっている。

 『Smart City Index』は、大都市を対象に、広く様々な課題への総合的な対応を評価している。だが、実際にスマートシティ化を目指す場合、それぞれの街の性格や人口構成、環境によって課題は大きく異なってくるため、優先順位付けが求められる。スマートシティ推進においては、目的の課題を明確にし、得られる価値を定義しなければならない。

 以下では、各国で進むスマートシティの取り組みから、それらに共通する主要な分野別に、解決すべき課題を具体的に見てみよう。

医療・健康

 目的は包括的な医療体制の拡充である。

 本連載の第33回『COVID-19パンデミックによって変わるデジタル活用とその価値』で述べたように、コロナ禍で感染防止や医療へのテクノロジー活用が加速している。

 例えばイギリスのマンチェスターにおけるスマートシティ推進では、「医療・健康」を1つの柱にしている。バイオメトリックスセンサーネットワークの構築による呼吸器疾患患者の健康向上や、コミュニティのウェルネスを実現するために、個人やグループの運動や活動を把握し運動を推奨するといった取り組みが始まっている。

交通・モビリティ

 目的は、交通渋滞の解消や人や物の移動について利便性、快適性、速さなどの改革である。

 無人運転車を使って移動や運搬を改善する例は、中国・深圳の無人運転バスなどに見られる。交通制御への応用例もある。中国・杭州の「ET City Brain」では、監視カメラでとらえた車両の運行状況や、タクシーの乗車記録。政府が持つデータを組み合わせて解析することで、交通信号をリアルタイムに制御し、大幅な渋滞緩和に取り組んでいる。

 ET City Brainのような大規模な適用例だけではない。スペイン・バルセロナで行われている、歩行者が頻繁に通行する道路で、時速30km以上で通過する自動車に対し、次の信号を自動的に赤にして車の速度を抑制し、事故の未然防止につなげるような例もある。