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DXの本質がディスラプションであることを忘れていないか【第45回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年6月21日

世界のDXではディスラプションが現在進行形

 世界は今も「ディスラプション(破壊)」や「市場崩壊」と呼ぶべき市場やビジネスの破壊的変革の中にある。その先鞭を付けたのが、米Amazon.comである。AmazonはEC(電子商取引)において、その品揃え、迅速な配達、顧客への新しい価値の提供によって、書籍やスポーツ用品、玩具など幅広い分野で小売業界を破壊し競合企業を打倒した。

 それに民泊の米Airbnbや、配車サービスの米Uber Technologiesなどによるシェリングエコノミー、中国AlipayによるQRコードを使ったオンライン決済などが続いた。米Appleのスマートフォンや米TeslaのEV(電気自動車)などによるディスラプションは現在も進行形である。

 様々なディスラプションが続くなか、日本の存在感は薄い。DXで目指さなければならないのは、既存市場への挑戦と変革、顧客への新しい価値の提供、プロセスの大幅な変革である。市場のディスラプションにつながるかどうかはともかく、自社や、自社が関係するプロセス、仕事のやり方、ビジネス自体に関して、破壊的な創造とイノベーションを目指す必要がある。そうした検討と実施を進めていかなければ、他社による市場のディスラプションへの追随すら難しくなり、競争力を失っていく。

 デジタルによるディスラプションのドライバーとして重要性を増しているのがデータだ。「Data is the new Oil.(データは新たな原油)」という表現があるように、これまでは石油がビジネスや社会を動かしてきたように、データの活用が新しい価値やビジネスを生み出していく。分析やAI(人工知能)技術・機械学習によりデータから新たな知見を発見し、その活用でこれまでの仕組みや仕事を大きく変えていく流れだ。

 そうした変化は、データに基づくマーケットプレイスでの売買や調達の変革、データに基づくバリューチェーン変革に向けた企業の提携やM&A(統合と買収)へと広がっていく。

 データ統合・集約に向けたM&A例が、格付け・金融情報会社の米S&Pグローバルによる英調査会社IHSマークイットの買収だ。買収額は440億円である。両社のデータや機能を合せることで、豊富で質の高い情報の提供体制を目指す。

8割の企業が「4年以内にデータディスラプション到来」と予測

 今後のデータディスラプションの動向を、独nxt statistaが作成した『Data Disruption Index(DDI)』から見てみよう。

 DDIは、200人以上の意思決定者から、業界ごとに該当する市場や競争力に関するデータ活用の動きと、データ活用レベルを調査したものだ。どの業界の、どの分野で、どの時期に、データディスラプションが起こると予測しているかをまとめている。2021年4月のDDIでは、80%の企業が「今後4年以内に、データディスラプションが到来する」と予測した。

 変革スピードが速い業界としては、金融・保険、エネルギー、IT・通信の3分野を挙げる。これら3分野の共通点は、サービスや製品自体がデジタル化されていることであり、2~3年以内にディスラプションが起こると予想されている。

 そこでの変革には、金融・保険業界や消費財業界における重要な経営判断の支援、製造や貿易におけるバリューチェーン全体での体系的なデータ活用、金融・保険業界と製造業界におけるデータに基づく製品/サービスのイノベーションが挙げられる。

 市場構造の変化についても予測している。エネルギー提供者、メディア企業、IT・通信業界では、「2年半後には、収益の半分以上がデジタルマーケットプレイスを通じて生み出される」と予測する。

 M&Aに関しては、消費財メーカー、IT・通信、自動車・エンジニアリング業界において、「今後2年以内に、より多くのデータを蓄積またはアクセスできることを目的としたM&Aが行われる」と予測している。官民のデータ連携も、今後2年間でエネルギー供給会社、金融・不動産業界において進むと見る。

 DDIが示すように、データディスラプションは加速している。そこで重要になるのは、データ活用の可能性の検討や、データを体系的に収集・蓄積する仕組み、データへのアクセスを確保する仕組み、分析・AI・機械学習によってデータから新しい知見を発見する高度な分析力、分析やAIの結果をどうビジネス変革や新ビジネス開発につなげる展開力である。

 これらの活動を支えるために、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などによるデータ収集や、データの蓄積・管理、分析のためのプラットフォームの重要性も増していく。