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DXの本質がディスラプションであることを忘れていないか【第45回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年6月21日

前回『スマートシティが実現する住民への価値』において、スイス国際経営開発研究所(IMD)とシンガポール工科デザイン大学(SUTD)による『Smart City Index』で東京は、2019年度の62位から2020年度は79位に後退したことを紹介した。日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)は期待通り進んでいない。DXの本質を見失っているからではないだろうか。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)へ取り組むことの重要性は日々、指摘されている。だが、期待通りに進んでいないばかりか、従来型のシステムにおいてもトラブルが続いている。

 例えば、みずほ銀行では、ATM(現金自動預払機)の停止など2週間に4度のシステムトラブルが発生した。新型コロナのワクチン接種予約では、ネットや電話がパンクして中断したほか、大規模接種センターの予約システムでは認証チェックに不備が見つかった。

同様のトラブルの繰り返しや既存のやり方でのシステム化が問題

 このようなシステムトラブルは、その発生自体が問題である。だが、より大きな問題は、同様のトラブルが繰り返されていることであり、既存のやり方を変えずにシステム化していることである。

 これに対し、ネットサービスにおけるリーディング企業は、上記のようなトラブルを発生させない仕組みを構築している。開発と運用に関しては、「DevOps(開発と運用の統合)」と呼ばれる、開発・運用を一体化し迅速な開発・変更や問題解決を可能にする体制を採っている。米Facebookのアプリケーションのように、午前中に報告された不具合が午後には修正される例もある。

 システムへの負荷の大幅な変動に対しては、予測に基づいてクラウドを使って負荷分散を図るといった仕組みで対応している。例えば、中国のアリババは2019年11月1日(シングルデー)には、68秒間で1050憶円の売り上げを達成するだけの膨大な処理をこなしている。セキュリティに関しても、増加するサイバー攻撃を想定した強固な認証とセキュリティ体制を敷いている。

 最新のシステム化方法論や最新のテクノロジーを活用することによって、問題の発生を抑え、安全で安定して使え、仮に問題が発生しても迅速に解決できる信頼性の高いシステムを構築・提供しているわけだ。

 システム自身には、まだまだ改善の余地が残されている。だが、より変革すべき課題は、システム化以前のプロセス変革や、システムに関する考え方の変革である。既存のやり方・進め方を基にシステム化を考えるのでは、その成果も小さく、イノベーションや新しいビジネスは実現できず、市場での競争力を失ってしまう。その変革を実現するのがDXの本来の姿である。