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リターン上げるAI技術活用の加速が規制強化も生む【第46回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年7月19日

前回『DXの本質がディスラプションであることを忘れていないか』で論じたディスラプションの中核に位置するのがデータだ。データの活用に向けたAI(人工知能)技術の活用が加速している。特に最近は、かつてのPoC(概念検証)段階を抜け出し、実質的な成果を上げる取り組みが増えてきた。今回は、AI技術活用について考えてみる。

 前回紹介した独nxt statistaによる「Data Disruption Index」は、AI(人工知能)技術に関し、こう指摘する。

「全業界の数以上において、データへのアクセスと分析能力に加え、AI(人工知能)技術に関する専門知識が今後、企業にとって不可欠な競争要因になる」

 具体的なAI技術の活用としては、(1)金融・保険、エネルギーの業界においては、3年後にはAIシステムが経営判断をサポートする、(2)メディア、金融・保険、IT・通信、エネルギー供給、自動車、エンジニアリングの業界においては、AI技術を活用した製品/サービスや新しい顧客体験(CX:Customer Experience)が広がると予測する。

競争力強化に向けたAI分野のM&Aも増加

 AI技術活用の重要度が高まるにつれて、企業のAI分野への投資やM&A(合併と買収)も増えている。M&Aで近年、焦点が当たっているのは、広告&マーケティング、サイバーセキュリティ、データマネジメント、ヘルスケア、NLP(自然言語処理)、画像・スピーチ認識、営業/顧客支援である。

 AI分野におけるM&Aをリードするのが、Apple、Google、Microsoft、Facebookの米国IT巨人の4社だ。これら4社だけで2016年~2020年に、AI関連で60社を買収している(米Global Data調べ)。なかでもAppleが群を抜いており25社を買収している。

 Appleは2020年だけで、データのエラー識別・修正を自動化するカナダのInductiv、ラジオ放送をパーソナライズする米Subverve、デジタルボイスアシスタントを提供するアイルランドのVoysis、エッジデバイスのAIモデルを構築する米Xnor.ai、動画の内容を解析し検索可能にするスペインVilynxの5社を買収した。

 これら買収をみれば、データクレンジング、Podcastのパーソナライズ、デジタルアシスタント、動画解析など、AI技術の活用によって、今後のプラットフォームやサービスの強化・拡充による競争力を高めようとしていることがわかる。

 実際、AI技樹の活用はすでに、様々なところで始まっている。実際の活用例を挙げれば、表1のように幅広い分野に広がっている。

表1:AI技術の業種・分野別の活用例
業種/分野活用例
製造ロボットの自動運転、画像認識を使った自動化や不良品発見、予兆診断による停止時間の削減や保守の変革、サプライチェーンや生産計画の最適化、自動発注、危険の削減、在庫数の最適化など
金融・保険投資判断、金融取引や投資の自動化、行動データに基づく保険、個人投資アドバイザー、株価予測、不正検知など
医療・ヘルスケア感染予防、手術ロボット、診断支援、ウェアラブルと連携した予防医療、感染予測、健康管理など
小売り販売予測、発注自動化、無人店舗、リコメンデーションなど
スマートホームパーソナルアシスタント、スマート家電、ホームセキュリティ、エネルギーや温度管理など
自動運転自動車、AGV(無人搬送車)、ドローンなど
SNS写真判断、ニュースの選択、人、広告など
ゲームチェス、将棋、碁などの対戦ゲーム、ジェスチャーなどによる操作など
サイバーセキュリティ攻撃の検知、不正検知など