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リテイル領域のDXを支えるAIの今とこれから【第48回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年9月21日

改革ビジョン(2):パーソナライゼーション

 個別の顧客の好みや要望に合わせて価値の高いサービスや商品を提供すること。

・顧客に合わせた商品やサービスの提供
・店内での商品カスタマイズ
・顧客情報と連動した、来店予約やECなどのサービス、顧客の特性を基にしたアドバイスなどの価値提供
・店内サイネージやモバイル情報のパーソナライズ化

改革ビジョン(3):新しいCX

 購入から使用、フォローアップまでの各過程において、新たな試みやサービスを提供すること。

・xR(AR:Augment Reality:拡張現実/VR:Virtual Reality=仮想現実/MR:Mixed Reality=複合現実)を使ったバーチャル試着
・実店舗をショールーム化し、ECと連携した買い物ができるショールーミング化
・QRコード付き電子値札での商品情報提供、ECサイトへの誘導、レシピアドバイス
・商品のサブスクリプションモデルでの提供
・店舗とオンラインの統合、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の活用などで顧客とのつながりを強化するオムニチャネル化

改革ビジョン(4):オプティマイゼーション

 最適化や自動化のこと。AI技術による予測やデータ分析を活用する。

・発注・補充・在庫管理の最適化
・廃棄による食品ロスの削減
・返却やリサイクリングの管理
・店内ロボットによる自動化
・省エネルギー管理
・AIコールセンターによる効率化
・既存の店舗や営業所などを顧客の近くにある小規模倉庫と見立て、そこから配送するマイクロフィルメントの構築
・RaaS(Retail as a Service)の活用。RaaSは、小売業者が獲得した顧客データや技術を活用し、自らがサービス提供者として、他の企業にサービスを提供するモデル。提供者の新しい収益源になり、利用者にとっても実績のある対策を迅速に活用できるなどのメリットがある

AI技術活用の実用化が進む

 これら改革ビジョンの実現において、データ活用とそれを基盤としたAI技術が多くの分野で活用されている。実際にAI技術がどのように使われているか、いくつかの例を見てみたい。

AI活用例(1):レジなし店舗

 最初のレジなし店舗は、米Amazon.comが2016年12月、本社内にオープンしたコンビニ「Amazon Go」である。Amazon Goでは、「Just Walk Out」と呼ぶ方式を採用し、棚から商品を自由に取ってバックやカートに入れられ、かつレジを使った決済が不要な「Checkout-free」を実現した。

 Just Walk Out/Checkout-freeを実現するために、2次元バーコードを使った入店確認、コンピュータビジョン(画像認識)やディープラーニングの活用による商品を棚から取ったり戻したりする動作の認識、棚センサーによる商品の増減情報による商品判別、Amazonアカウントによる認証・決済といった技術を利用している。

 他社のレジなし店舗では、入退室管理システムにAI技術を使った顔認識を使うものもある。カメラとディープラーニングを使った行動解析など、カメラ画像を解析することによる認証や行動解析・予測が多用され始めている。

AI活用例(2):不正防止

 ECや店舗の無人化を進めていく上では、ユーザーアカウントや支払いをサイバー攻撃や不正利用から保護する必要がある。過去の購買データ、使われたデバイス、場所などから通常の購買パターンを学習し、不正使用のパターンやケース情報を参照しながら、リアルタイムに収集した購買データから疑わしい取引を発見する。

 購買データの解析は、購入・返品ポリシーの乱用を防ぐためにも利用されている。AIシステムに正常パターンや不正パターンを学習させることで、不正や異常なパターンを発見できる。