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リテイル領域のDXを支えるAIの今とこれから【第48回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年9月21日

リターン上げるAI技術活用の加速が規制強化も生む【第46回】』で取り上げたように、AI(人工知能)技術の活用が様々な分野で進みつつある。我々の日常生活に身近な店舗などリテイル(小売り)分野でも、AI技術の活用を実際に見たり体験したりする機会も増えてきた。コロナ禍の外出自粛に伴う非接触(コンタクトレス)な接客の広がりによって加速してもいる。今回はリテイル領域におけるAI技術活用の現状とこれからを見てみたい。

 2020年度の通販市場の売上高(速報値)は、前年度比20.1%増の10兆6300億円になり、初めて10兆円を越えた。コロナ禍にあってEC(Electric Commerce:電子商取引)の活用が急増している。

 その中で、新しいCX(Customer Experience:顧客体験)の導入やデータ活用が進む。一方でサプライチェーンの混乱により、製品が不足するような状況も起きており、そこへの対処も必要になっている。顧客接点を担うリテイル(小売り)領域では、大きな変化への対応が求められ、将来に向けた変革への取り組みが進められている。

 ECにおいて、データ活用の代表例であるリコメンデーション(お薦め)はすでに日常のものになっている。最近では、AI(人工知能)カメラを応用したレジなし店舗をダイエーが開店させたり、AIとAR(Augment Reality:拡張現実)の両技術を組み合わせたバーチャル試着をイトーヨーカ堂などが導入を進めたりと、AI技術を使った変革が広がってきている。

リテイル領域における4つの改革ビジョン

 リテイル領域の今後の改革ビジョンとしては、(1)フリクションレス、(2)パーソナライゼーション、(3)新しいCX、(4)オプティマイゼーションが挙げられる(図1)。これらビジョンの具現化に向けて、デジタル技術を活用するデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みがなされるわけだ。以下にそれぞれの例を挙げてみたい。

図1:リテイル領域の改革ビジョン

改革ビジョン(1):フリクションレス

 商品の購買・決済や販売情報の入手などの顧客体験において、障害になるものをなくすことである。

・入店から出店まで顧客が店員と接しない無人店舗・レジなし店舗
・ディスプレイやモバイルを使ったディスカウント情報や買い得商品の案内などのタイムリーな情報提供
・商品の陳列場所への誘導
・ドローンや自動運転車によるデリバリー