- Column
- 大和敏彦のデジタル未来予測
暗号通貨からデジタル通貨へ、ブロックチェーンが広げるDX【第49回】
各国の中央銀行がデジタル通貨の発行に動く
一方、各国の中央銀行は「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の発行に向けて動いている。CBDCは法定通貨であり、現金と同等に安定した価格を維持し、その受け取りは拒否できない。
CBDCで先行するのは中国だ。中国では2019末から、デジタル人民元「DCEP:Digital Currency Electronic Payment)の発行に向けたパイロット実験を進めている。
DCEPは、商業銀行が中国人民銀行に口座を開設し、準備金の100%を支払った上で発行される。個人や企業は、商業銀行が提供する電子決済用アプリであるデジタルウォレット(電子財布)を通じて使用する。オフライン状態での取引やスマートカードによる決済など、様々な形態も試されている。
『中国におけるデジタル人民元(DCEP)の調査研究の進展』によれば、パイロット実験により2021年6月末までにダウンロードされたデジタルウォレットは2087万個、累計取引件は7075万件で、取引総額は345憶元(約5900億円)に及ぶ。
2020年に「暗号法」が成立し、CBDCやブロックチェーン技術を活用する土台ができた。2022年にはDCEPが正式に発行される見込みである。上述したマイニング禁止、暗号資産の禁止も、DCEPの準備のためと考えられている。
EU(欧州連合)でも欧州中央銀行が2021年7月、「デジタルユーロ」を準備するプロジェクトを正式に開始することを決めた。プライバシー、安全性、汎用性を重視したデジタル通貨として2年間の検証作業を進める。
銀行口座を持たない人にも決済サービスを提供
各国がCBDCの発行を急ぐ理由の1つは、クロスボーダーな取引決済におけるリーダーシップを握ることにある。現金より便利で迅速で安価に取引できるCBDCの発行により基軸通貨のポジションを狙う。
世界銀行の発表によると、世界の送金市場は2020年に7020億ドルに達し、2026年までには、さらに2000億ドル増加すると予想されている。CBDCの活用により、この市場のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む。
CBDCがもたらすメリットは、図2のとおりである。デジタル化による利便性や迅速性、トレース機能に加え、銀行口座を持たない人にも決済サービスを提供できることが大きなメリットとして挙げられる。
特に新興国では、CBDCによって国民が等しく金融サービスを受けられる仕組みを提供できるとして注目されている。クレジットカードや電子マネーは銀行口座が必要だが、CBDCを提供することで、金融だけでなく、様々なデジタルサービスの決済が可能になるからだ。
そのため各国はCBDC発行に積極的である。国際決済銀行が実施したサーベイでは、回答した65の中央銀行のうち、デジタル通貨が実証研究段階にある国は60%に上る。さらに向こう3年のうちに世界人口の20%がCBDCを利用可能になると見込まれている。
CBDCが広がることで、スマホやデジタルサービスの普及・浸透ととともに様々な領域でのDXが加速する。その一方で既存の暗号通貨やキャッシュレス決済などは大きな影響を受けるだろう。