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加熱する金融のディスラプションを制するのは誰か【第50回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年11月22日

前回『暗号通貨からデジタル通貨へ、ブロックチェーンが広げるDX』で、ブロックチェーンの活用として暗号資産やデジタル通貨について触れた。その金融業界では、現金のやり取りをベースにする仕組みのディスラプション(破壊)が起こっており、既存の金融機関との競合が激化している。そうした動きから今回は、Fintechの動向と、そこでのデジタルトランスフォーメーション(DX)の考え方を見てみたい。

 ディジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが“待ったなし”になっている。そうした状況下、金融業界ではディスラプション(破壊)をチャンスと見たFAMGA(Facebook:現Meta、Apple、Microsoft、Google、Amazon)といったプラットフォーマーや新興企業の参入が盛んだ。金融機関を仲介しない金融サービスの市場規模は約1000億ドルと、この1年で5倍に急増したと、日本経済新聞は報じている。

 金融のディスラプションを加速しているのがFintech(Financial Technology)だ。Fintechがカバーする分野は幅広い。デジタル決済から、送金、融資、資本調達、保険、財産/資産の管理・運用、暗号資産、不動産、規制関連などなどである。

世界の支払額の約4割は既にデジタル決済に

 これらの中で現在、最大規模になっているのがデジタル決済だ。デジタル決済は既に、グローバルでの消費者の支払額の約40%を占めている。決済額は2020年に4.9兆ドルに達し、2024年には8.2兆ドルになると予測されている(独Statista調べ)。

 国別にみると中国と米国がリードし、それぞれ3.3兆ドル、0.9兆ドルである。中国では、2013年からの5年間に、その規模は約27倍に急拡大した。Alipay(支付宝)とWeChat Pay(微信支付)が2大サービス提供者になっている。両社は海外にも進出しており、それぞれ8億人、6億人のユーザーを抱えている。

 日本でも、様々な企業がQRコードを使ったデジタル決済サービスを開始し、キャンペーンなどでユーザー獲得と活用を加速した。結果2020年には、QRコード決裁の店舗利用件数は27億1700万件、利用金額は4兆2000億円になっている。

 日本のデジタル決済市場をリードしているのは、ヤフーとソフトバンクが設立したPayPayである。同社のサービス「PayPay」の会員数は4100万人を突破し、国内のデジタル決済サービスの取扱高の68%を占める(キャッシュレス推進協議会調べ)。

 そのPayPayは2021年10月、それまで無料だった中小加盟店の決済手数料を有料化した。これにより、小売り店舗グループが独自決済を検討し始めている。日本でのデジタル決済は、第1弾の競争から、ユーザーの維持や内容の進化に関する第2弾へと展開している。

プラットフォーマ―FAMGAがFintechに投資

 プラットフォーマ―であるFAMGAは、ビジネスチャンスとしてのFintechに注目し投資を続けてきた。例えば2021年1月~3月の同分野への米Googleの投資額は、前年同期比で約2倍の228億ドルに上る。

 米国のデジタル決済市場では、米AppleとGoogleが第1位と第2位を占めている。市場シェアは、Appleの「Apple Pay」が49%、Googleの「Google Pay」が37%をそれぞれ獲得している。2021年7月には、Googleが日本のスマホ決済のスタートアップ企業pringを買収することが報道されるなど、グルーバルな競争も激しくなっている。

 FAMGAはデジタル決済以外にも幅広い分野への参入を果たしている。その積極的な活動状況は、下記のようなニュースとして伝えられている。

・Shopifyのワンクリック決済「Shop Pay」が、Facebook/Instagram/Googleと連携
・Appleウォレットが、暗号資産による支払いを可能にするBitPayと提携
・Microsoftが、オープンバンキングソリューションを提供するイタリアFabricksとの提携
・Amazonが、クラウドベースPOS(販売時点情報管理)のインドPerpuleを買収
・Amazonが、米Affirmとの提携を通じてBNPL(後払い)サービスを提供

 ほかにもAmazonは、「Amazon Cash」や取引履歴を基に融資するトランザクションレンディングのサービスも提供している。Amazon Cashでは、受信したバーコードを使ってコンビニ店頭でAmazonアカウントへの入金ができる。

 銀行との協業による銀行業務へもチャレンジしている。例えば、Appleが米投資銀大手Goldman Sachsと提携してチャレンジするクレジットカード事業や、Googleが米金融大手Citiグループと共同で取り組み、米Stanford大学の信用組合が運営する当座預金口座サービスなどだ。

 FAMGAの強みは、強大なプラットフォームを持ち、膨大な数のユーザーを抱えるとともに、テクノロジーやデータドリブンなビジネスにも通じていることである。Fintechを活用することは、自社の仕組みや協力会社、顧客の金融に関する部分の変革にも適用できる。

 Fintech分野のビジネスを広げることは、プラットフォームビジネスの強化・拡張にもつながる。決済データからは、消費者の需要動向を知ることができる。既に持つデータ分析やAI(人工知能)システムの機能によって、データの価値をさらに高め、ビジネスへと展開できる。サービスの増加はプラットフォームへの広告収入増にもつながる。

 顧客へのCX(Customer Experience:顧客体験)の面でも、自社プラットフォームとの連携によって付加価値を実現できる。例えば飲食店を利用する場合、「Google Map」に表示された飲食店までの交通機関を調べると同時にメニューから事前に料理を注文すれば、交通機関の運賃やレストランの料金を前払いするといったことが可能になる。